半七捕物帳 半鐘の怪(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
夜ごとひとりでに鳴る火の見の半鐘
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 15,811字
- 読了目安
- 約32分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の第六話で、1917年(大正6年)に「文芸倶楽部」に掲載された。四谷の初酉から帰った半七老人が、火事の話の流れで、「お化け師匠」の家からほど遠くない下町の一町内で起きた騒ぎを語る。秋の終わりから、火の気もない夜更けに町内の火の見の半鐘がひとりでに鳴り出し、町の人々は寝ずの番に追われる。やがて夜道で女が髪をつかまれ、物干しの子どもの着物が屋根伝いに歩き出すといった怪事が重なっていく。自身番や番太郎の役目、鍛冶屋の鞴祭りの蜜柑まきなど、町内の暮らしのしくみが老人の注釈とともに細かく描かれ、火事を恐れる江戸の人々の神経が一編の背景になっている。
あらすじ
秋の末から、下町のある町内で、夜になると火の見の半鐘がひとりでに鳴り出す騒ぎがつづいた。見張りを厳しくすると鳴らず、油断するとまた鳴る。雨の夜、囲い者のお北は傘が急に重くなって裂け、何者かに髷をつかまれて倒れ、印判屋の物干しの赤い着物は屋根から屋根へひとりでに歩いて消えた。質屋の隣の垣根に登っていたのを煙草屋の娘お咲に見られた鍛冶屋の小僧・権太郎が犯人と決めつけられ、自身番で棒で殴られ縛られるが、その夜も半鐘は鳴る。その後、お咲が夜道で突き飛ばされて髷をかきむしられ、自身番の親方・佐兵衛が足をすくわれ、番太郎の女房お倉が帯を解かれて頬を引っかかれるなど、騒ぎは収まらない。十一月八日の鞴祭りの日、半七は権太郎を稲荷の空地へ連れ出して問いただす。権太郎は、自分を密告したお咲や、殴って縛った自身番の者たちへの意趣返しに、十七の兄がやったのだと泣いて打ち明け、兄の代わりに自分を縛ってくれとすがる。心を打たれた半七は兄のことを伏せると約束する。半鐘を調べたとき火の見梯子に獣の爪の跡を見つけていた半七は、権太郎と蜜柑を囮にして、お北が引っ越したあとの空き家に潜んでいた大きな猿を生け捕りにした。猿は両国の猿芝居で八百屋お七を演じていた女形で、逃げ出して町内に紛れ込み、火の見に登って半鐘を打っていたのだった。騒ぎはすべて猿の仕業ということになり、猿は遠島、権太郎は町内で可愛がられ、一人前の職人になった。
登場人物
- 半七 神田の岡っ引。半鐘の騒ぎの正体を探る
- 権太郎 町内の鍛冶屋の弟子。十四の評判のいたずら小僧で、騒ぎの犯人と疑われる
- 佐兵衛 町内の自身番の親方。持病の疝気に悩む
- お北 路地に住む囲い者。もと柳橋の芸妓
- お咲 煙草屋の十七の娘。権太郎が垣根に登るのを見ていた
- お倉 番太郎の女房。気丈な女
冒頭部(原文より)
一 半七老人を久し振りでたずねたのは、十一月はじめの時雨れかかった日であった。老人は四谷の初酉へ行ったと云って、かんざしほどの小さい熊手を持って丁度いま帰って来たところであった。
「半七捕物帳 半鐘の怪」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
「その飼主は一貫文の科料、猿公は世間をさわがしたという罪で遠島、永代橋から遠島船に乗せられて八丈島へ送られました。奴は芝居小屋なんぞで窮屈な思いをしているよりも、島へ行って野放しにされた方が仕合わせだったかも知れません。畜生のことですもの、島の役人だって厳重に縛って置いたりするもんですか、どこへかおっ放してしまいますよ」 猿の遠島――こんな珍らしい話を聴かされて、わたしは今日もわざわざたずねて来た甲斐があったと思った。
「半七捕物帳 半鐘の怪」岡本綺堂(青空文庫)
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