半七捕物帳 地蔵は踊る(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
縛られ地蔵に縛られた女
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 20,696字
- 読了目安
- 約41分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の一編。几董の句「誰が願ぞ地蔵縛りし藤の花」の話から、半七老人は、願をかけるとき荒縄で縛る小石川茗荷谷林泉寺の「縛られ地蔵」と、その向こうを張って近くの高源寺の門前に現れたもう一つの縛られ地蔵の話を始める。安政六年の夏、コレラ(コロリ)の再流行におびえる江戸で、高源寺の地蔵が日暮れに前後左右へ揺れて「踊る」と評判になり、これを拝めばコロリにかからないと参詣人が押し寄せる。やがて地蔵は踊らなくなり、ある朝、地蔵に縛りつけられた若い女の亡骸が見つかる。寺の内情に踏み込んでいく一話。
あらすじ
安政六年、小石川第六天町の高源寺の門前にある縛られ地蔵が、日暮れになると揺れ動いて「踊る」と評判になる。拝めばコロリにかからないと人が集まったが、八月の大風雨のあとは急に踊らなくなった。二十四日の朝、その地蔵に田舎娘風の女が荒縄で縛りつけられて死んでいるのが見つかる。半七は子分の亀吉と地蔵堂を調べ、地蔵の下に墓地の無縁塔へ続く横穴を見つけ、坊主どもが地下から地蔵を揺らしていたと見抜く。寺では、預かっていた女の死骸が消えたと大騒ぎで、寺男の源右衛門も十四日から行方知れずだった。門内の花屋の娘お住が姉らしい娘と歩いていたと聞いた半七が問いつめると、小坊主の智心が鉈で襲いかかってくる。老住職祥慶は観念してすべてを打ち明けた。寺の窮乏から役僧が石屋に地蔵を作らせて縛られ地蔵を始めたが、石屋の伜松蔵に秘密を種にゆすられ、その入れ知恵で地蔵を踊らせた。源右衛門は大風雨で緩んだ穴の土に埋まって死んだ。殺された女は花屋の姉娘のお歌で、秘密を盾に若い役僧俊乗に言い寄って駆け落ちを迫り、それを見かねた智心に首を絞められたのだった。俊乗が蘇生を祈って地蔵に縛りつけると、お歌は息を吹き返して去っていた。その知らせのさなか、俊乗は裏山で首をくくって死んだ。
登場人物
- 半七 神田の岡っ引。縛られ地蔵の一件を寺社方の頼みで調べる
- 亀吉 半七の子分。地蔵の踊りを見物していた
- 祥慶 高源寺の住職。気品のある老僧
- 俊乗 高源寺の若い役僧。清らかな顔立ちの青年
- 智心 高源寺の十六の小坊主
- お住 寺の門内の花屋の娘。父の定吉と暮らす
冒頭部(原文より)
ある時、半七老人をたずねると、老人は私に訊いた。 「あなたに伺ったら判るだろうと思うのですが、几董という俳諧師はどんな人ですね」 時は日清戦争後で、ホトトギス一派その他の新俳句勃興の時代であたから、わたしもいささかその心得はある。几董を訊かれて、わたしはすぐに答えた。彼は蕪村の高弟で、三代目夜半亭を継いだ知名の俳人であると説明すると、老人はうなずいた。 「そうですか。実はこのあいだ或る所へ行きましたら、そこへ書画屋が来ていて、几董の短冊というのを見せていました。わたくしは俳諧の事なぞはぼんくらで、いっさい判らないのですが、その短冊の句だけは覚えています」 「なんという句でした」 「ええと……、誰が願ぞ地蔵縛りし藤の花……。そんな句がありますかえ」
「半七捕物帳 地蔵は踊る」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
「高源寺の噂を聞くと、こいつはすぐに影を隠しました。草鞋を穿いて追っかけるほどの兇状でもないので、まあ其のままに捨て置きましたが、あとで聞くと木更津の方で変死したそうです。同職の石屋を頼って行って、そこで働いているうちに、その石屋で大きい石地蔵をこしらえる時、どうしたわけか其の地蔵が不意に倒れて、松蔵は頭を打たれて死んだと云うのです。なんだか因縁話のようで、嘘か本当かよく判りませんが、まあそんな噂でした。 高源寺はその後、廃寺になってしまって、今では跡方もなくなりましたが、一方の林泉寺の縛られ地蔵は昔のままに残っています。明治以後は堂を取り払って、雨曝しのようになっていますが、相変らずお花やお線香は絶えないようです」
「半七捕物帳 地蔵は踊る」岡本綺堂(青空文庫)
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