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半七捕物帳 仮面(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物

一つの仮面に二人の買い手

  • ミステリ
  • 歴史

岡本綺堂 

文字数
7,560字
読了目安
約15分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

岡本綺堂「半七捕物帳」の一編。書画を種にした明治の大詐欺の新聞記事を前置きに、半七老人が「その時代相応に悪知恵をめぐらす奴」と、あとで「おやおや」となった勘違いの一件を語る。元治元年の秋、京橋の道具屋伊藤の店先にかかった生成の古い仮面に、能役者らしい男と西国の藩士を名乗る若侍とが相次いで目をつける。商売気と同情とに揺れる道具屋の主人の胸算用を軸にした、短い一話。

あらすじ

元治元年九月、京橋東仲通りの道具屋伊藤の店に、能役者らしい男が来て、店の隅の生成の古い仮面を二十五両で買う約束をし、手付けに三両を置いていく。昼過ぎには西国の藩士を名乗る若い武士が現れ、その仮面は主家が権現様から拝領し、虫干しの折に紛失した品で、見つけながら買い損ねた自分は腹を切るほかないと嘆き、五十両を預けて百五十両で買い戻す約束をする。主人の孫十郎は商売気も手伝い、夕方に出直してきた能役者を酒でもてなして破談を頼み込み、粘られた末に七十五両の違約金を払う。ところが武士はその後いつまで待っても来ない。二人は示し合わせた騙りだったと気づいた孫十郎は、半七に訴え出る。ところが調べてみると二人に関わりはなかった。能役者は金春の弟の道楽者繁二郎で、上作の仮面を大名屋敷に売り込むつもりが破談を持ち込まれ、足もとを見て吹っかけただけだった。若侍は本物の藩士根井浅五郎で、重役に重ねて叱られて咎めを恐れ、受け取った百五十両を持って逐電していたが、目黒に潜んで品川で派手に遊ぶうちに捕らえられた。しかも屋敷が改めて見に来ると、店の仮面は上作ではあっても紛失した品とは別物だった。貧乏くじを引いたのは道具屋ひとりだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

ある冬の日、わたしが老人を赤坂の家にたずねると、老人は日あたりのいい庭にむかって新聞をよんでいた。その新聞には書画を種の大詐欺の記事がかかげてあって、京浜は勿論、関西九州方面にわたってその被害高は数万円にのぼったと書いてあった。老人は嘆息しながら云った。 「だんだん世の中が進むにつれて、万事が大仕掛けになりますね。それを思うとまったく昔の悪党は小さなもので、今とは較べものになりません。なにしろ十両以上の金高になれば首が飛ぶという時代ですから、悪い奴も自然こそこそが多かったんですね。それでも又、その時代相応に悪知恵をめぐらす奴があるので、やっぱり油断は出来ないことになっていました。それがまた勘違いの種にもなって、あとでおやおやというようなこともありました」

「半七捕物帳 仮面」岡本綺堂(青空文庫)

末尾部(原文より)

「それがおかしいんです。その屋敷では浅五郎の云うことを一途に信じて、あわててその仮面を取り戻そうとしたんですが、浅五郎の逐電から疑いを起して、今度は眼のきいている者を掛け合いによこすと、伊藤の店さきには麗々しくその仮面がかけてある。よく視ると、それはなるほど上作には相違ないが、屋敷にあった由緒付きの仮面とは違うので、この上は掛け合いも無用と、そのまま帰ってしまったのだそうです。まったく馬鹿な話で、伊藤がひとり貧乏くじをひいたわけです」 「すると、ほんとうの仮面というのは知れずじまいですか」と、わたしは又訊いた。 「知れなかったようです」と、老人は答えた。「それとも其の後どこかで見付けたかも知れませんが、万事が秘密主義の時代ですから、それに係り合った者でなければ判りませんよ」

「半七捕物帳 仮面」岡本綺堂(青空文庫)

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