半七捕物帳 吉良の脇指(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
吉良の脇指で討つ主と姉の仇
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 22,613字
- 読了目安
- 約45分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
- 千葉県
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の一編。極月十三日、煤払いを祝う蕎麦をごちそうになった語り手に、半七老人は、大高源吾の笹売りから赤穂浪士の討ち入りを思い起こし、討たれた吉良上野介の形見が伝わっている話を始める。嘉永六年の暮れ、天王橋の女の仇討ちを報じる瓦版を食い入るように読む若者がいた。麹町の魚屋の息子鶴吉で、番町の旗本である姉の旦那とその姉とを中間に斬り殺され、仇討ちを誓っていた。凶器は、旗本家に代々伝わる「吉良の脇指」だった。下総の堀江など江戸近郊も舞台にした一話。
あらすじ
嘉永六年十二月、半七は知り合いの飼葉屋直七から、麹町の仕出し魚屋笹川の伜鶴吉を引き合わされる。鶴吉の姉お関は番町の旗本福田左京の妾から本妻同様になっていたが、十月、中間の伝蔵が金を盗もうとして見とがめられ、枕もとの脇指で左京とお関を斬り殺した。伝蔵は本家に口止め料をゆすりに行って逃げ、福田家は取り潰しとなった。その脇指は先祖伝来の「吉良の脇指」で、鶴吉はそれを形見にもらい受け、母に励まされて主人と姉の仇を討とうとしていた。半七は善八を連れて、伝蔵と通じて屋敷を出された女中お熊の実家、下総堀江の兄宇兵衛を訪ねる。行徳の宿では、下谷の茶道具屋遠州屋才兵衛と行き合い、才兵衛は堀江の干潟や宇兵衛の家のまわりをうろついていた。宇兵衛によれば、お熊は江戸の遠州屋に奉公しており、伝蔵も一度訪ねてきたという。年が明けると、伝蔵は江戸で旧知の者たちを次々とゆすり歩き、やがて才兵衛が聖天下で刺し殺される。才兵衛はお熊の兄から、茶道具の羽箒に使う珍しい雁の尾羽を仕入れようとしていただけだったが、伝蔵はお熊との仲を疑ったのだった。半七は台場普請の銀貨から思いつき、人足に紛れ込んでいた伝蔵を見つけ出す。七月、高輪で放たれた伝蔵を、鶴吉は吉良の脇指で突き通して本懐を遂げた。
登場人物
- 半七 神田の岡っ引。主人と姉の仇を討ちたい若者に力を貸す
- 善八 半七の子分。堀江への探索に同行する
- 鶴吉 麹町の仕出し魚屋笹川の伜。主人と姉の仇討ちを志す
- 伝蔵 旗本福田左京の屋敷の中間。秩父の生まれ
- お熊 福田家の元女中。伝蔵と通じて暇を出される
- 遠州屋才兵衛 下谷御成道の茶道具屋。商売に抜け目がない
冒頭部(原文より)
極月の十三日――極月などという言葉はこのごろ流行らないが、この話は極月十三日と大時代に云った方が何だか釣り合いがいいようである。その十三日の午後四時頃に、赤坂の半七老人宅を訪問すると、わたしよりもひと足先に立って、蕎麦屋の出前持ちがもりそばの膳をかついで行く。それが老人宅の裏口へはいったので、悪いところへ来たと私はすこし躊躇した。 今の私ならば、そこらをひと廻りして、いい加減の時刻を見測らって行くのであるが、年の若い者はやはり無遠慮である。一旦は躊躇したものの、思い切って格子をあけると、おなじみの老婢が出て来て、すぐに奥へ通された。
「半七捕物帳 吉良の脇指」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
「その脇指はどうなりました」 「なんでも笹川の家から福田の屋敷の菩提所、光隆寺へ納めたとか聞きましたが、それからどうなったか知りません。考えてみると、かたき討ちの場所は高輪で、例の泉岳寺の近所、脇指は吉良の物、どこまでも縁を引いているのも不思議で、訳を知らない人が聞いたら、こしらえ話のように思うかも知れません」と、老人は笑っていた。 わたしが暇乞いをして帰る頃には、細かい雪がちらちら降り出した。
「半七捕物帳 吉良の脇指」岡本綺堂(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。