半七捕物帳 狐と僧(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
袈裟を着た狐の死骸
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 8,750字
- 読了目安
- 約18分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
- 山梨県
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の一編で、前話「小女郎狐」に続いて半七老人が「これも狐の話」として、自分が手がけた事件を語る。嘉永二年の秋、谷中の古い寺時光寺の住職英善が、檀家の仏事の帰りに行方を絶ち、翌朝近くの寺の前の溝で、住職の袈裟と法衣をまとい数珠と経文を携えた年経た狐の死骸が見つかる。住職が近ごろ急に犬を嫌うようになっていたこともあって、狐が住職に化けていたという噂が広まり、寺社奉行も詮議の手がかりを得られない。寺社方の事件で町方の半七には本来かかわりがなかったが、谷中の寺町で、溝の泥に手を伸ばす利発な小坊主と出会ったことから話が動き出す。
あらすじ
嘉永二年の秋、谷中の時光寺の住職英善が、根岸の道具屋伊賀屋の仏事の帰りに小坊主英俊を先に帰したまま行方を絶った。翌朝、近くの無総寺の前の溝で、住職の袈裟と法衣を着た狐の死骸が見つかる。住職が近ごろ犬を嫌っていたことから、狐が住職に化けていたと噂され、寺社奉行の詮議も打ち切られた。九月の末、谷中の葬式帰りの半七は、無総寺の溝のふちで泥のなかの物を取ろうとしている十三の小坊主英俊に出会う。半七が拾い上げた小さな仏像は、時光寺の秘仏らしかった。狐なら尊い仏を持ち出すはずがないと泣く英俊に、半七は師匠の仇を取ってやると約束する。翌日、英俊から寺の内情を聞いた半七は、寺社方の許しを得て子分の松吉と亀八を呼び、下谷坂本の安蔵寺に泊まっていた本山の僧三人が一挺の駕籠を連れて帰ったと聞くと、英俊を連れて駕籠で甲州街道を急ぐ。二日目の夜、鳥沢の宿の旅籠の前で僧たちに追いつき、駕籠のなかに、口のきけない薬を飲まされた英善を見つける。宗門の本山をめぐる争いで、英善は本山に反対する有力な一人だったため、本山派の僧たちに捕らえられ、本山へ連れ去られるところだった。狐の死骸は住職が消えたことをごまかす身代わりだった。秘仏は、英善が反対運動の費用を借りるため伊賀屋に質入れしようと持ち出し、捕らえられたときに袂へ隠したものだった。本山派の僧四人は入牢となり、二人は牢死、二人は遠島となった。犬嫌いは運動で気が立っていただけで、事件とはかかわりがなかった。
登場人物
- 半七 神田三河町の岡っ引。寺社方の事件に手を貸す
- 英善 谷中の時光寺の住職。四十一歳
- 英俊 時光寺の十三の小坊主。色白で利発な少年
- 善了 時光寺の二十一の納所
- 伴助 時光寺の耳の遠い正直な寺男
- 松吉 半七の子分。亀八とともに甲州街道へ同行する
冒頭部(原文より)
一 「これも狐の話ですよ。しかし、これはわたくしが自身に手がけた事件です」と、半七老人は笑った。 嘉永二年の秋である。江戸の谷中の時光寺という古い寺で不思議の噂が伝えられた。それはその寺の住職の英善というのが、いつの間にか狐になっていたというのである。
「半七捕物帳 狐と僧」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
「それはなんにも係り合いのないことなんです。住職が犬を嫌うようになったというので、おそらく狐が化けていたのだろうなどという疑いも起って来たんですが、だんだん調べてみると斯ういうわけでした。住職は出家のことで、ふだんから畜類を可愛がっていたんですが、本山反対の運動を起してから、こんにちの詞でいえば神経が興奮したとでもいうのでしょう。なんだか苛々したような気分になって、今まで可愛がっていた犬などにも眼をくれず、犬の方から尻尾をふって近寄っても、怖い顔をして追っ払うという風になった。そこへ例の一件が出来したもんですから、それが又何だか仔細ありげに云い触らされるようになったのです。一体この事件にかぎらず、わたくし共の方ではよくこんな事でいろいろ思い違いや見込み違いをすることがあります。無事の時ならばなんでもないことが、大仰に仔細ありげに考えられますから、よっぽど注意しないといけません。探索という上から見れば、髪の毛一本でも決して見逃がしてはなりませんが、所詮は大体のうえに眼をつけて、それから細かいところへ踏み込んで行かないと、前にも云ったような、飛んだ見込み違いで横道へそれてしまうことがありますよ」
「半七捕物帳 狐と僧」岡本綺堂(青空文庫)
原文を読む
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