半七捕物帳 熊の死骸(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
大火の夜に暴れた荒熊
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 15,615字
- 読了目安
- 約31分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の一編。神信心の話から、半七老人は弘化二年正月二十四日、亀戸天神の鷽替えに出かけた日のことを語り始める。その日、強い北風のなかで青山の権太原から出た火事は、麻布から芝の三田、高輪までをなめ尽くす大火となった。知人の見舞いに駆けつけた半七は、火の粉の降る高輪の大通りで、火に追われて逃げてきた大きな熊が人々のなかで暴れ回るのに出くわす。生薬屋の娘が熊に襲われかけたところへ、一人の若い男が身を挺して飛びかかる。江戸の大火の阿鼻叫喚と、焼け跡に生きる芝・高輪の町の人々を背景に、行方の知れない熊の死骸とその後の出来事が絡み合っていく。
あらすじ
弘化二年正月二十四日、青山から出た火事は芝の高輪まで燃え広がる大火となった。高輪の仲間の岡っ引伊豆屋弥平を見舞おうとした半七と子分の松吉は、逃げ惑う群衆のなかに現れた荒熊が、田町の生薬屋備前屋の娘お絹に襲いかかろうとするのを見る。そのとき湯屋車湯の三助勘蔵が熊に組みつき、二人の武士が熊を斬り倒した。腕を痛めた勘蔵を自身番へ運んだ半七は、礼にも来ない備前屋に掛け合い、勘蔵に十両の見舞金を出させる。熊は麻布の膏薬屋が看板代わりに飼っていたものだったが、その死骸は行方が知れなかった。お絹は火事に驚いて寝つき、熊が来ると口走るようになる。四月、風邪で寝込んだ弥平の代わりに、半七は、お絹が高輪の海辺で胸を刺されて死に、その手に獣の毛が握られていた事件を引き受ける。途中で出会った小博奕打ちの六三郎の襟に同じ熊の毛を見つけて問い詰めると、六三郎は大火の夜に仲間と熊の死骸を盗み、皮を剥いで売ろうとしていたことを白状する。前夜は熊の皮を奪い合って仲間と海辺で揉み合ううち、毛皮の上に女が倒れたのだという。半七は備前屋の内風呂が壊れるたびに家の者が車湯に通っていたことを確かめ、勘蔵を捕らえる。お絹は火事のあと身を寄せた橋場の親類の店の若い者と通じ、仮病を使って橋場へ戻ろうとしていた。それを知った勘蔵が、橋場へ案内すると偽って連れ出し、騙されたと気づいて逃げようとしたお絹を刺したのだった。勘蔵は獄門となり、熊の胆を盗み出した備前屋の番頭四郎兵衛らも罰せられた。
登場人物
- 半七 神田三河町の岡っ引。大火の夜に熊と出くわす
- 松吉 半七の子分。大火の夜に同行する
- 勘蔵 田町の湯屋車湯の三助。加賀の生まれ
- お絹 田町の生薬屋備前屋の一人娘
- 四郎兵衛 備前屋の番頭。勘蔵と同郷
- 伊豆屋弥平 高輪の岡っ引。半七の仲間
- 六三郎 小博奕を打つやくざな男
冒頭部(原文より)
一 神信心という話の出たときに、半七老人は云った。 「むかしの岡っ引などというものは、みんな神まいりや仏まいりをしたものです。上の御用とはいいながら、大勢の人間に縄をかけては後生が思われる。
「半七捕物帳 熊の死骸」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
「この方のお話をすると長くなりますから、手っ取り早く申し上げると、熊の死骸を掘り出して熊の胆を盗んだ奴は、備前屋の番頭の四郎兵衛でした。昼間のうちに六三郎から死骸を埋めた場所を聞いて置いたので、日の暮れるのを待って忍んで行って、ひと足さきにその熊の胆を占めてしまったのです。いや、どうも悪い奴で……。それが露顕して、四郎兵衛もとうとう召し捕られましたが、品川の伝吉という奴だけはどこへか姿をかくしてしまいました。吟味の上で、勘蔵は無論に獄門、六三郎と百助と四郎兵衛は三人同罪ということになりました。今と違って、火事場どろぼうは重い処刑になるんですが、盗んだ品が箪笥長持や夜具蒲団のたぐいでなく、なにしろ熊の死骸というのですから、罪も大変に軽くなって、たしか追放ぐらいで落着したように聞いています」
「半七捕物帳 熊の死骸」岡本綺堂(青空文庫)
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