半七捕物帳 三河万歳(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
牙のある赤子を抱いた行き倒れ
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 16,180字
- 読了目安
- 約32分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の一編。正月の赤坂で、万歳の鼓の音を聞きながら、半七老人が江戸の万歳の思い出を語る。武家屋敷に出入りする「屋敷万歳」と町家を回る「町万歳」の違い、三河から下ってくる万歳と房総から来る相方の才蔵の約束事など、明治以後に消えつつあった正月の芸能が詳しく紹介される。話の発端は文久三年か元治元年の暮れ、鎌倉河岸に倒れていた田舎者らしい男で、そのふところには、上顎に二本の牙の生えた赤ん坊が抱かれていた。見世物の因果者を扱う香具師、猫に踊りを仕込む芸など、江戸の裏町の暮らしも織りまぜて、年の瀬の寒風のなかで探索が進む。
あらすじ
文久三年か元治元年の十二月二十七日の朝、鎌倉河岸に二十五六の田舎者らしい男が凍え死んでおり、ふところには上顎に二本の牙の生えた生後二、三か月の赤ん坊を抱いていた。手のひらの鼓胼胝から、半七は男を万歳の相方の才蔵と見る。子分の亀吉が見世物の因果者を扱う香具師仲間を洗うと、鬼っ児を扱った者はいないが、下谷稲荷町の香具師富蔵が猫の子をなくしたという。呼び出された富蔵はなぜか強く否定する。善八は、麹町の万歳の定宿三河屋で、市丸太夫という万歳が約束の才蔵松若が来ないと困っていると聞き込む。稲荷町の長屋の女房の話から、富蔵が踊りを仕込んだ白猫を、隣に住む囲い者のお津賀の「叔父」と称する五十ばかりの男が殺し、富蔵がその償いに十両を求め、力ずくで紙入れを奪ったことがわかる。男はその後お津賀にも表へ突き出されていた。三河屋にお津賀らしい女が訪ねていたことも確かめられる。二十九日の明け方、富蔵の家が焼けて富蔵は死に、お津賀の死骸も井戸から見つかった。半七は焼け残った稲荷の祠に火をつけると脅して、隠れていた市丸太夫を引きずり出す。市丸太夫はお津賀に貢ぎ、猫の償い金に窮して、三河屋の元女中が産んだ牙のある赤ん坊を猫の代わりに富蔵に渡そうとし、その使いを松若に頼んでいた。松若は途中で酒に酔って凍え死んだのだった。思いつめた市丸太夫は二人を殺しに行ったが、酔って喧嘩した二人が行燈を倒し、焼け死ぬのを見ていたという。赤ん坊は母親に返され、市丸太夫は叱り置かれて故郷へ帰った。
登場人物
- 半七 神田三河町の岡っ引。年の瀬に行き倒れと牙のある赤子の謎を追う
- 亀吉 豆腐屋の伜あがりの半七の手先。豆腐屋亀と呼ばれる
- 善八 半七の子分。万歳の宿を調べる
- 富蔵 下谷稲荷町に住む香具師。見世物小屋の木戸番
- お津賀 富蔵の隣に住む小粋な女。多くの男とかかわる
- 市丸太夫 麹町の三河屋を定宿にする屋敷万歳。五十過ぎの道楽者
冒頭部(原文より)
一 ある年の正月、門松のまだ取れないうちに赤坂の家をたずねると、半七老人は格子の前に突っ立って、初春の巷のゆきかいを眺めているらしかった。 「やあ、いらっしゃい。まずおめでとうございます」 いつもの座敷へ通されて、年頭の挨拶が式のごとくに済むと、おなじみの老婢が屠蘇の膳を運び出して来た。
「半七捕物帳 三河万歳」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
長い牙を持った因果者の赤児は、生みの母のお北に引き渡された。市丸太夫は表向きに彼を罪にすべき廉もないので、ただ叱り置くというだけで免されたが、すぐに宿を引き払って故郷へ帰った。それから後の江戸の春に市丸太夫の万歳すがたはもう見えなくなった。
「半七捕物帳 三河万歳」岡本綺堂(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。