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半七捕物帳 三つの声(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物

暁の戸を叩いた三つの声

  • ミステリ
  • 歴史

岡本綺堂 

文字数
12,685字
読了目安
約25分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

岡本綺堂「半七捕物帳」の一編。元治元年の春、芝田町の鋳掛屋庄五郎が、仲間二人と川崎大師へ日帰りで参詣する約束をして、夜明け前に家を出る。高輪の大木戸で落ち合うはずが三人は顔を合わせず、そのあいだに庄五郎の家の戸は三度叩かれ、三つの声が聞こえた。夕方、庄五郎は芝浦の沖で死体となって見つかる。若後家をめぐる男たちの思惑と、まだ暗い暁の戸口で交わされた短いやりとりが鍵になる、引き締まった一話。末尾には、岡っ引の吟味の呼吸を半七老人が語る。

あらすじ

元治元年三月二十一日の暁、芝田町の鋳掛屋庄五郎は、従弟の平七、隣り町の建具屋藤次郎と高輪の大木戸で落ち合い、川崎大師へ参る約束で家を出る。その後、女房お国と小僧次八の寝ている家の戸が三度叩かれた。一度目は「庄さん」と呼ぶ平七の声、二度目は「平公は来なかったか」と問う庄五郎らしい声、三度目は「おかみさん」と呼ぶ藤次郎の声だった。藤次郎は二人に会えなかったと言い、平七は茶屋の葭簀の中で寝込んでいたと言う。夕方、庄五郎は芝浦沖で溺死体となって見つかり、過ちで落ちたものとして葬られる。やがて若後家お国をめぐって平七と藤次郎が往来で掴み合い、高輪の岡っ引伊豆屋の子分は、お国に気があって「亭主が無ければ」と口走っていた平七を下手人として捕らえる。二度目の声は藤次郎が冗談で庄五郎の声色を使ったものだと説明されていた。子分の湯屋熊からこの話を聞いた半七は、三つの声に引っかかってお国の家を訪ね、柳の陰に立っていた藤次郎を引き据える。庄五郎を捜しに来たのなら、なぜまず庄五郎の名を呼ばずに「おかみさん」と呼んだのか。亭主がいないと知っていたからだと半七は畳みかける。二度目の声は本物の庄五郎で、引き返す途中で平七と行き違い、大木戸で藤次郎と二人きりになったところを、お国に思いを寄せる藤次郎に海へ突き落とされたのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

芝、田町の鋳掛屋庄五郎が川崎の厄除大師へ参詣すると云って家を出たのは、元治元年三月二十一日の暁方であった。もちろん日帰りの予定であったから、かれは七ツ(午前四時)頃から飛び起きて身支度をして、春の朝のまだ明け切らないうちに出て行ったのである。  庄五郎の家は女房のお国と小僧の次八との三人暮らしで、主人が川崎まいりに出た以上、きょうは商売も休み同様である。ことに七ツを少し過ぎたばかりであるから、表もまだ暗い。これからすぐに起きては早いと思ったのと、主人の留守に幾らか楽寝する積りであったのとで、庄五郎が草鞋をはいて出るのを見送って、女房は表の戸を閉めた。女房は茶の間の六畳に、小僧は台所のわきの三畳に寝ることになっているので、二人は再びめいめいの寝床にもぐり込んで、あたたかい春のあかつきの眠りをむさぼっていると、やがて表の戸を軽くたたく者があった。

「半七捕物帳 三つの声」岡本綺堂(青空文庫)

末尾部(原文より)

それから罪人の横っ面をなぐったりする。今からみれば乱暴かも知れませんが、玄人は度胸が据っているから、いよいよいけないと思えば素直に恐れ入りますが、素人にはそれがなかなか出来ない。いえ、強情で云わないのではない。云うことが出来ないのです。それも軽い罪ならば格別、ひとつ間違えば自分の首が飛ぶというような重罪が発覚したかと思うと、大抵の素人はぼうっとなってしまって、早くいえば酒に酔ったようになって、なんにも云えなくなってしまうのです。といって、いつまでも黙らせて置いては埒があきませんから、そういう時には気つけの水を飲ませてやるか、さもなければ横っ面を引っぱたいてやるのです。そうすると、はっと眼が醒めたようになって、初めて恐れ入るというわけです。たとい悪いことをしても、むかしの人間はみな正直だから、調べる方でもこんなことをしたのですが、今の人間は度胸がいいから、こんな世話を焼かせる者もありますまいよ」

「半七捕物帳 三つの声」岡本綺堂(青空文庫)

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