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半七捕物帳 向島の寮(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物

寮の土蔵にひそむ大蛇と女

  • ミステリ
  • 歴史

岡本綺堂 

文字数
12,218字
読了目安
約24分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

岡本綺堂「半七捕物帳」の一編で、前話「お照の父」の終わりで半七老人が予告した「蛇」の捕物にあたる話。慶応二年の梅雨冷えの六月、風邪気味の半七のもとへ、町内の生薬屋の主人が、女中お徳の妹お通の身の上を相談に来る。お通は桂庵の口利きで、年に三両という破格の給金で向島寺島村の奥の寮に奉公したが、土蔵に祀られた大蛇に三度の食事を運ぶ役を命じられ、そこで幽霊のような若い女の姿を見たという。物価高騰で打ち壊しが起こる幕末の世相を背景に、江戸の外れの寂しい寮にひそむ秘密に、半七は桂庵の帳面と人の噂から迫っていく。

あらすじ

慶応二年六月、半七は町内の生薬屋の主人平兵衛から、女中お徳の妹お通の相談を受ける。お通は年三両という法外な給金で、三年以上の長年の約束をして向島寺島村の奥の寮に奉公した。そこで土蔵に祀られた大蛇に三度の食事を運ぶ役を言いつけられたが、土蔵の二階から幽霊のような若い女が降りてきて手招きし、一丈もある薄青い蛇も見た。覗いたことを寮番夫婦にとがめられ、命にかかわると姉に助けを求めてきたのだった。桂庵の帳面から、寮の持ち主が霊岸島の米問屋三島だとわかる。手先のひょろ松の調べで、三島の一人娘で評判の小町娘おきわが三年前、店の若い者良次郎と駆け落ちしたと噂されていることを知る。今戸の良次郎の母を訪ねると、母は駆け落ちを信じておらず、わけあって三年姿を隠すが主人と親のためだという手紙と三十両が届いたと見せる。向島の料理屋で、半七は寮番の六蔵が良次郎に、帰りたがるお通を色仕掛けで引き止めろと迫るのを衝立越しに聞き、匕首を抜こうとした六蔵を捕らえる。寮の土蔵からは、押し籠められていたおきわが助け出された。三島の後家お糸は番頭由兵衛と密通しており、由兵衛は身代を乗っ取るため、邪魔なおきわを土蔵に閉じ込め、良次郎を相手に駆け落ちを装わせていたのだった。お糸は牢死し、六蔵は死罪、由兵衛は獄門、良次郎は孝心を認められて叱り置かれた。土蔵を取り壊しても大蛇は姿を見せず、おきわも蛇を見たことはないと言った。

登場人物

冒頭部(原文より)

     一  慶応二年の夏は不順の陽気で、綿ぬきという四月にも綿衣をかさねてふるえている始末であったが、六月になってもとかく冷え勝ちで、五月雨の降り残りが此の月にまでこぼれ出して、煙のような細雨が毎日しとしとと降りつづいた。うすら寒い日も毎日つづいた。半七もすこし風邪をひいたようで、重い顳をおさえながら長火鉢のまえに欝陶しそうに坐っていると、町内の生薬屋の亭主の平兵衛がたずねて来た。

「半七捕物帳 向島の寮」岡本綺堂(青空文庫)

末尾部(原文より)

 向島の寮は取り毀された。これは上からの命令ではなかったが、こういう事件を仕出かした以上、三島に向ってその破却を勧告するのが親類の義務であった。秘密をつつんでいた土蔵も無論に取り崩されたが、お通が見たという大蛇は姿を現わさなかった。おきわもそんな蛇を見たことはないと云った。霊ある蛇はわざわいを未然に察してどこかへ立ち去ってしまったのか、あるいはお通のおびえた眼に一種のまぼろしが映ったのか、それはいつまでも疑問として残されていた。

「半七捕物帳 向島の寮」岡本綺堂(青空文庫)

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