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半七捕物帳 お文の魂(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物

江戸の岡っ引が語る事件簿

  • ミステリ

岡本綺堂 1917年(大正6年)1月 「文芸倶楽部」

文字数
16,162字
読了目安
約32分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

岡本綺堂が『半七捕物帳』シリーズの第一話として1917年(大正6)に発表した短編。元岡っ引の半七老人が、若い「わたし」に江戸の事件を語って聞かせる形をとる。綺堂はシャーロック・ホームズに着想を得てこのシリーズを書き始めたとされ、後の捕物帳の先駆けと評価される。表題作では、旗本の屋敷に夜ごと現れるという幽霊の噂を半七が調べる。怪異めいた出来事を、人の仕業として筋道立てて見ていく運びが、シリーズの型を示している。

あらすじ

「わたし」が幼い頃、Kのおじさんから聞かされた「おふみの一件」の顛末。元治元年、江戸番町の旗本・小幡伊織に嫁いだお道が、突然に離縁を願って実家へ帰る。理由を問い詰められた彼女は、毎夜枕もとに濡れそぼった若い女の幽霊が現れ、幼い娘お春までが「ふみが来た」と叫ぶのだと訴えた。兄と夫は古池を浚い、井戸をさらい、椿を掘り返すが、幽霊の正体はつかめない。近所の旗本の次男Kのおじさんが乗り出し、神田の岡っ引・半七に相談する。半七は、奥方が貸本屋から借りた草双紙「新編うす墨草紙」に、古池に沈められた腰元お文の幽霊の絵があることを突き止める。お道がその絵を見せて娘を嚇したために、お春が夜ごと「お文」の名を叫ぶようになったのだ。さらに半七は、菩提寺の破戒僧が、お道の美貌に目をつけて「夫を持てば命に関わる」と偽りの予言で脅し、離縁させて我が物にしようとしていた企みを見抜く。半七に釘を刺された悪僧は震え上がり、半年後に女犯の罪で捕えられた。危うい断崖から救われたお道は、追善供養を営んで一件を落着させる。半七を、語り手は「江戸時代に於ける隠れたシャアロック・ホームズ」と呼ぶのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

わたしの叔父は江戸の末期に生まれたので、その時代に最も多く行なわれた化け物屋敷の不入の間や、嫉み深い女の生霊や、執念深い男の死霊や、そうしたたぐいの陰惨な幽怪な伝説をたくさんに知っていた。しかも叔父は「武士たるものが妖怪などを信ずべきものでない」という武士的教育の感化から、一切これを否認しようと努めていたらしい。その気風は明治以後になっても失せなかった。わたし達が子供のときに何か取り留めのない化け物話などを始めると、叔父はいつでも苦い顔をして碌々相手にもなってくれなかった。その叔父がただ一度こんなことを云った。「しかし世の中には解らないことがある。あのおふみの一件なぞは……」

「半七捕物帳 お文の魂」岡本綺堂(青空文庫)

末尾部(原文より)

幼いわたしのあたまには、この話が非常に興味あるものとして刻み込まれた。併しあとで考えると、これらの探偵談は半七としては朝飯前の仕事に過ぎないので、その以上の人を衝動するような彼の冒険仕事はまだまだほかにたくさんあった。彼は江戸時代に於ける隠れたシャアロック・ホームズであった。わたしが半七によく逢うようになったのは、それから十年の後で、あたかも日清戦争が終りを告げた頃であった。わたしは或る機会から、この半七老人と懇意になって、赤坂の隠居所へたびたび遊びに行くようになった。その茶話のあいだに、わたしは彼の昔語りをいろいろ聴いた。一冊の手帳は殆ど彼の探偵物語でうずめられてしまった。その中から私が最も興味を感じたものをだんだんに拾い出して行こうと思う、時代の前後を問わずに――

「半七捕物帳 お文の魂」岡本綺堂(青空文庫)

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