半七捕物帳 鬼娘(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
喉笛を食い切る白い浴衣の女
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 15,156字
- 読了目安
- 約30分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の一編で、半七老人が「弁天娘」に対する話として語り出す。文久元年の夏、浅草馬道のあたりで、白い手拭をかぶり白地の浴衣を着た若い女が夜道に現れ、若い女たちが次々と喉笛を食い切られて死ぬ。鬼婆の伝説で名高い浅茅ヶ原に近い土地柄もあって「鬼娘」の噂が広まり、娘たちは日が暮れると門涼みにも出なくなる。半七は子分の庄太の住む露路で起きた三人目の事件をきっかけに乗り出し、浅草観音の境内で奉納の鶏を盗んだ中間が土地の者に私刑を受けている場面に出くわす。浅草寺の境内や吉原に近い町並みなど、浅草界隈の夏の風景のなかで話が進む。
あらすじ
文久元年七月、浅草馬道の界隈で、白い手拭をかぶり白地の浴衣を着た若い女が夜道で鼻緒屋の娘を脅したのに続き、酒屋の下女お伝、山の宿の小間物屋の女房が喉笛を食い切られて死んだ。人々は鬼娘の仕業と恐れる。二十日の朝、子分の庄太が、隣家の娘お作が前夜行水の最中に同じ女に覗かれ、喉を食い破られて死んだと知らせてくる。浅草へ向かった半七は、観音の境内で奉納の鶏を盗んだ中間が土地の者に縛られ打たれているのを見て仲裁する。中間は一羽しか盗んでいないと言い張るが、近ごろ界隈で鶏がたびたび消えると聞き、半七は鬼娘の件と結びつける。お作の家の露路の奥の垣根で獣の黒い毛と四つ足の跡を見つけ、喉を食い切ったのは獣で、怪しい女が獣を連れていると見る。庄太は、吉原の堤下に住む獣使いの女お紺に心当たりがあるという。調べるとお紺の家には強そうな犬が二匹飼われていた。半七と庄太は腕っぷしの強い男の助けを借りて寺町の暗がりで待ち伏せ、犬を連れて素足で来たお紺を捕らえ、犬は棒で打ち殺した。お紺はもと見世物の熊や狼の使い手で、ひどい盗み癖から香具師仲間に締め出された女だった。顔を怪しく化粧して狂女を装い、仕込んだ犬に見咎めた者の喉を咬ませては盗みを重ね、鶏も犬に捕らせていた。お紺は引き廻しのうえ獄門となり、残る一匹の犬も獄門台の下に生き埋めにされた。
登場人物
- 半七 神田三河町の岡っ引。鬼娘の噂の正体を探る
- 庄太 浅草馬道に住む半七の子分。隣家の娘が殺される
- お作 庄太の隣家の娘。奥山の茶店に出ている
- お伊勢 お作の母
- お紺 吉原の堤下に住む女。もと見世物の獣使い
冒頭部(原文より)
一 「いつかは弁天娘のお話をしましたから、きょうは鬼むすめのお話をしましょうか」と、半七老人は云った。 馬道の庄太という子分が神田三河町の半七の家へ駈け込んで来たのは、文久元年七月二十日の朝であった。
「半七捕物帳 鬼娘」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
「まあ、こういう訳なんです」と、半七老人は一と息ついた。「わたくしも初めは何がなんだか見当が付かなかったんですが、浅草へ出かけての鶏の一件にぶつかってから、どうもその鶏の一件と鬼娘の一件とが何かの糸を引いているらしいと思い付いたんです。それからだんだん調べて行った挙げ句に、なんでも人間が犬を使ってやる仕事だろうと睨んだので、庄太にそれを相談すると、吉原の堤下にお紺という獣物使いで、質のよくない女が住んでいるという。それから庄太を探索にやると、果たしてお紺の家には二匹の強そうな犬が飼ってあるという。もうそれで、種がすっかり挙がってしまって、案外に訳なく片付いたんです。捕物の方からいえば楽なんですが、唯そのお紺が犬を連れているというので少し困りました。そこで、庄太の近所にいる腕っ節の強い男を味方にたのんで、人間も犬も一緒に片付けてしまったんです。それでも其の場でぶち殺された犬は仕合わせで、生き残っていた方は飛んだむごたらしいお仕置をうけて可哀そうでした。これが江戸じゅうの評判になって、お紺は犬神使いだなどという噂もありましたが、種を割ってみれば今云ったようなわけで、唯その遣り口がめずらしいので、ちょっと世間をおどろかしただけのことですよ。でも、まあ、いい塩梅にその後再びそんな真似をする奴も出ませんでした。今日ならば死骸の疵口をあらためただけで、人間が咬んだのか、獣が咬んだのか、そのくらいのことはすぐ鑑定が付くでしょうが、昔はそれがよく判らなかったんですね。それだけに探索の方も余計に骨が折れたんですよ」
「半七捕物帳 鬼娘」岡本綺堂(青空文庫)
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