半七捕物帳 女行者(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
公家の娘を名乗る女行者
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 16,208字
- 読了目安
- 約32分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の一編。明治三十二年の秋、明治座で「天一坊」を見物したのを機に、半七老人が芝居の書きおろしの思い出から、将軍の落胤を名乗った天一坊になぞらえて、江戸にいくつもあった「女天一坊」の話を始める。文化年間の偽の日野家息女の一件を前置きに、本題は文久元年九月のこと。日本橋茅場町に、京の公家の息女と名乗る若く美しい女行者が現れ、白い小袖に緋の袴の姿で祈祷や占いを行って多くの信者を集めていた。尊王攘夷の議論が沸き立つ時節柄、八丁堀の同心は浪士の軍用金集めではないかと警戒し、半七に内偵を命じる。祈祷所の奥でひそかに行われる夜更けの祈祷に、何がひそむのかが焦点になる。
あらすじ
文久元年九月、八丁堀同心岡崎長四郎は半七に、茅場町で京の公家冷泉為清の息女と名乗り、祈祷で信者を集める美しい女行者を探るよう命じる。勤王討幕の議論が沸く時節だけに、浪士の軍用金集めの疑いもあった。子分の多吉の調べでは、行者は式部という五十ばかりの上方者の男と、藤江という小娘とで祈祷所を営み、裕福な信者には夜更けに秘密の祈祷をして多額の寄進をさせていた。下っ引の源次は、葺屋町の紙屋炭団伊勢屋の美男の一人息子久次郎が、母の病の祈祷を頼んだのを機に夜ごと祈祷所へ通い、数百両を運び込んで、魂が抜けたようになっていると聞き込む。半月たっても浪士の出入りはつかめなかったが、やがて式部が伊勢屋に乗り込み、久次郎が行者に淫らなことを言ったと掛け合って二百両を受け取る。その夜、久次郎は家を出たまま帰らなかった。半七は信者に化けて祈祷所に乗り込み、奉納した箱の中身の泥だらけの草履も見通せない行者の偽りを暴いて、刃物を抜いた式部と行者、藤江を捕らえる。その日の夕方、久次郎の死骸が品川沖に浮かんだ。行者は公家侍の娘お万、藤江は妹のお千で、親を亡くした二人を引き取った式部が、姉を行者に仕立てて江戸で稼いでいたのだった。式部はお万をわがものにしており、お万と久次郎が惹かれ合うのを妬んで追い払ったのだった。勤王の陰謀は杞憂にすぎなかった。式部は死罪、姉妹は追放となった。
登場人物
- 半七 神田の岡っ引。女行者の背後を探る
- 岡崎長四郎 八丁堀同心。半七に内偵を命じる
- 女行者 茅場町の祈祷所の若く美しい女。冷泉為清の息女と称する
- 式部 女行者に仕える五十ばかりの上方生まれの男
- 藤江 女行者に仕える十五六の娘
- 久次郎 葺屋町の紙屋炭団伊勢屋の息子。権十郎に似た美男
- 多吉 半七の子分
- 源次 半七が使う下っ引
冒頭部(原文より)
一 明治三十二年の秋とおぼえている。わたしが久松町の明治座を見物にゆくと、廊下で半七老人に出逢った。 「やあ、あなたも御見物ですか」 わたしの方から声をかけると、老人も笑って会釈した。そこはほんの立ち話で別れたが、それから二、三日過ぎてわたしは赤坂の家をたずねた。半七老人の劇評を聞こうと思ったからである。
「半七捕物帳 女行者」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
こんなことは長くつづく筈はないので、一万両の金を儲け出したらば、京都へ帰って田地でも買って、安楽に一生を暮らすつもりであったと式部は申し立てた。かれはもう三千両ほどをたくわえて、奥の唐櫃にしまい込んであったのを一切没収された。単にこれだけのことであれば、かれらは追放ぐらいで済んだかも知れなかったのであるが、伊勢屋の伜久次郎の死がこれに関聯しているので、その罪は軽くなかった。 式部は死罪に行なわれた。 お万とお千は追放を申し渡された。美しい姉妹のその後の運命はわからない。
「半七捕物帳 女行者」岡本綺堂(青空文庫)
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