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半七捕物帳 新カチカチ山(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物

大川に沈んだ梅見帰りの屋根船

  • ミステリ
  • 歴史

岡本綺堂 

文字数
23,102字
読了目安
約46分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

岡本綺堂「半七捕物帳」の一編。明治二十六年、歌舞伎座で團十郎の光秀や「神霊矢口渡」を見てきた半七老人が、渡し舟の底を抜いて新田義興を沈めた矢口渡の故事、カチカチ山の狸の土舟になぞらえて、ある屋根船の沈没事件を語り出す。文久元年の春、築地の三千石の旗本浅井因幡守の一家が、砂村の下屋敷へ梅見に出かけた帰り、船宿三河屋の屋根船が大川の中ほどで浸水して沈む。屋敷の内情に町方が踏み込めない武家相手の探索の難しさを描きながら、沈んだ船の秘密に迫る一話。

あらすじ

文久元年一月末、築地の旗本浅井因幡守は、妾お早、娘お春、女中三人と屋根船で砂村の下屋敷へ梅見に出かけるが、帰りの大川で船底から水が入り、船は沈む。泳げる船頭千太だけが助かり、因幡守らは溺れ死に、お春と女中お信の死骸は上がらない。千太は姿を消した。屋敷は主人は駕籠で帰ったと取り繕い、嫡男小太郎が家督を継ぐが、奥方お蘭の里方などが内密に真相の探索を頼み、半七が引き受ける。船宿三河屋の船頭金八は、当日は自分の番だったのを千太が買って出たと話し、船底には抉った跡があった。お信は三河屋の主人清吉の姪だった。お早の父長五郎から、去年の暮れにお早がお信を連れて宿下がりし、密談していたと聞いた半七は、ある秘密を知る。千太の友人の船頭寅吉が何者かに斬られ、さらに三河屋の前の、あの沈んだ屋根船の中で、若い武士と女の心中死体が見つかる。小太郎と、生きていたお信だった。半七は清吉を問いつめる。お信は若殿小太郎と密かに通じていたが、お春に知られ、お早から身を引くよう意見された。恨んだお信は叔父の清吉に泣きつき、お早らを沈めるため船底に細工させたのである。泳げるお信は岸に逃れ、その日に限って船で帰った因幡守まで巻き添えになった。三千石の浅井家は取り潰しとなり、清吉も千太も牢死した。

登場人物

冒頭部(原文より)

明治二十六年の十一月なかばの宵である。わたしは例によって半七老人を訪問すると、老人はきのう歌舞伎座を見物したと云った。 「木挽町はなかなか景気がようござんしたよ。御承知でしょうが、中幕は光秀の馬盥から愛宕までで、団十郎の光秀はいつもの渋いところを抜きにして大芝居でした。愛宕の幕切れに三宝を踏み砕いて、網襦袢の肌脱ぎになって、刀をかついで大見得を切った時には、小屋いっぱいの見物がわっと唸りました。取り分けてわたくしなぞは昔者ですから、ああいう芝居を見せられると、総身がぞくぞくして来て、思わず成田屋ァと呶鳴りましたよ。あはははは」

「半七捕物帳 新カチカチ山」岡本綺堂(青空文庫)

末尾部(原文より)

「いや、そのお春というお嬢さまは……」と、老人は悼ましそうに顔をしかめた。「何処をどう流れて行ったのか知れませんが、房州の沖で見付かりました。これは後に聞いたことですが、房州の漁師が沖へ出て、大きな鮫を生け捕って来て、その腹を裂いてみると、若い女の死骸がころげ出た。その時には何者か判らなかったんですが、着物や持ち物が証拠になって、その女は浅井のお嬢さまだということが知れたそうです。揃いも揃って何という運の悪いことか、まったくお話になりません。浅井の奥さまのお蘭という人は里方の菅野家へ戻りましたが、亭主は水死、息子は心中、娘は右の始末ですから、いよいよ半気違いのようになってしまって、それから間もなく死んだということです。三河屋の清吉も千太と同様、吟味中に牢死しました」

「半七捕物帳 新カチカチ山」岡本綺堂(青空文庫)

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