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半七捕物帳 旅絵師(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物

旅絵師に化けた隠密

  • ミステリ
  • 歴史

岡本綺堂 

文字数
17,169字
読了目安
約34分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

岡本綺堂「半七捕物帳」の一編で、半七の手柄話ではなく、受け売りとして語られる幕府の隠密の話。江戸時代の隠密とはどういう役かという「わたし」の問いに、半七老人は、吹上の御庭番が将軍から直々に命じられ、家にも帰らずに諸大名の領内へ潜り込み、露見すれば殺されても泣き寝入りという命がけの役目だったと詳しく説く。本題は文政四年の初夏、御庭番の間宮鉄次郎が旅絵師山崎澹山に化けて奥州のある藩へ向かう話で、藩主の代替わりにまつわる家中の騒動の噂を探るのがその役目だった。旅の途中、利根川の渡しで川に落ちた娘を救ったことが縁となり、物語は奥州の城下町の商家へと移っていく。

あらすじ

文政四年五月、吹上の御庭番間宮鉄次郎は旅絵師山崎澹山に化け、藩主の代替わりに家中の騒動の噂がある奥州のある藩へ隠密として向かう。利根川の房川の渡しで、船から落ちた娘おげんを救った澹山は、その父で城下の穀屋千倉屋の主人伝兵衛に厚くもてなされ、店の離れに逗留して絵を描くことになる。伝兵衛の推挙で藩の用人の息子荒木千之丞から掛物を頼まれるが、思うように描けず悩む。一方、おげんは澹山を慕ってまとわりつき、絵の弟子にしてくれとせがむ。九月のある夜、澹山は伝兵衛に丘の上の弁天堂へ連れ出され、古い異国の女人像を見せられて模写を頼まれる。それは禁制の切支丹の聖母マリアの像だった。伝兵衛は澹山が江戸の隠密であることを見抜いており、頼みを聞けば身を守り役目を助けると、神の前で誓う。互いに命がけの秘密を握られた澹山は、一月かけて絵像を描き上げ、伝兵衛からは信徒たちが集めた家中の秘密の資料を受け取る。若殿の死は毒害ではなく疱瘡で、跡継ぎをめぐる争いはすでに決着していた。翌年二月の雪の夜、離れで澹山と話していたおげんは、庭から突き出された槍から澹山をかばって死ぬ。伝兵衛は、おげんに懸想していた千之丞が恋敵を狙ったものと見て、澹山を急いで領外へ送り出す。隣国の宿に逗留するうち、千之丞が闇討ちにされたと伝わった。江戸に戻った鉄次郎は、二度と絵筆を執らなかった。五年後、奥州のある城下で切支丹十一人が磔になったと聞き、伝兵衛父子を思い出した。

登場人物

冒頭部(原文より)

     一 「江戸時代の隠密というのはどういう役なんですね」と、ある時わたしは半七老人に訊いた。 「芝居や講釈でも御存知の通り、一種の国事探偵というようなものです」と、老人は答えた。

「半七捕物帳 旅絵師」岡本綺堂(青空文庫)

末尾部(原文より)

 無事に使命を果たして帰った彼は、組頭にも褒められ、上のおぼえもめでたかった、しかし彼は決して切支丹のことを口にしなかった。彼は再び絵筆を執らなかった。  千倉屋からはその後何のたよりも無かったが、それから五年ほど経った後に、奥州のある城下町で切支丹宗門の者十一人が磔刑にかかったという噂を聴いた時に、彼はすぐに伝兵衛父子の名を思い出した。そうして、おげんはやっぱり仕合わせであったかとも思った。弁天堂の奥に秘められていたマリアの絵像も、かれが模写した同じ絵像も、どうなったか判らない。おそらく誰かの手で灰にされてしまったであろう。

「半七捕物帳 旅絵師」岡本綺堂(青空文庫)

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