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半七捕物帳 津の国屋(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物

撫子の浴衣の娘が酒屋に祟る

  • ミステリ
  • 歴史

岡本綺堂 

文字数
33,418字
読了目安
約1時間7分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

岡本綺堂「半七捕物帳」の一編で、シリーズのなかでもとりわけ長い中編。題目太鼓の聞こえる秋の宵、半七老人が「怪談」として、赤坂で起きた一件を語る。半七自身ではなく、桐畑の若い岡っ引常吉が手がけた事件で、半七は陰で手を貸したという。弘化四年の夏、赤坂裏伝馬町の常磐津の師匠文字春は、堀の内の祖師参りの帰り道、撫子の浴衣を着た見知らぬ娘につきまとわれる。娘は町内の酒屋津の国屋の娘お雪に会いに行くと言い、やがて闇のなかで姿を消す。物語の大半は臆病で人のよい文字春の目を通して語られ、死霊の祟りの噂におびえる町内の空気がじわじわと描き出されていく。

あらすじ

弘化四年六月、赤坂裏伝馬町の常磐津の師匠文字春は、堀の内参りの帰りに、撫子の浴衣を着た娘に四谷からつきまとわれる。娘は町内の酒屋津の国屋のお雪に会いに行くと言い、堀端で姿を消した。大工の兼吉によれば、津の国屋はかつて養女のお安を、実子が生まれたあと濡れ衣を着せて八王子へ追い返し、お安は恨んで死んだ。その後、十七になった実の娘お清も、同じ姿の娘が現れたあとに死んだという。その晩、津の国屋には撫子の浴衣の娘を乗せたという駕籠屋が駕籠賃を取りに来た。それからおかみさんお藤の怪我、托鉢僧の「凶宅じゃ」という予言、女中を脅す若い女の声、仏壇からの出火と凶事が続き、主人の次郎兵衛は菩提寺に引きこもる。文字春の口利きで女中お角が雇われるが、お角は文字春にお藤と番頭金兵衛の密通をほのめかす。師走、お藤と金兵衛が土蔵で首を吊って見つかり、心中とされた。桐畑の岡っ引常吉は文字春から死霊の一件を聞き、半七に相談する。やがて若い者の長太郎がお雪を刃物で脅して連れ出し、小僧の勇吉が出刃包丁で立ち向かい、長太郎は溜池で死ぬ。勇吉は長太郎が金兵衛を殺したと疑っていた。直後、お角は文字春に斬りかかり、常吉に追われて井戸に身を投げた。真相は、津の国屋の親類の池田屋と大桝屋が菩提寺の住職と組んで身代の乗っ取りを企み、矢場女お兼を幽霊に仕立て、お兼の叔母お角と長太郎にお藤と金兵衛を絞め殺させたのだった。一味は罰せられ、翌年、常吉と文字春、勇吉とお雪の縁談がまとまった。

登場人物

冒頭部(原文より)

     一  秋の宵であった。どこかで題目太鼓の音がきこえる。この場合、月並の鳴物だとは思いながらも、じっと耳をすまして聴いていると、やはり一種のさびしさを誘い出された。 「七偏人が百物語をしたのは、こんな晩でしょうね」と、わたしは云い出した。

「半七捕物帳 津の国屋」岡本綺堂(青空文庫)

末尾部(原文より)

「どうです。かなり入り組んでいるでしょう」と、半七老人は笑いながら云った。「くどくもいう通り、随分廻り遠い計略で、今日の人達から考えると、あんまり馬鹿々々しいように思われるかも知れませんが、第一には何といっても昔の人間は気が長い。もう一つには金儲けということがなかなかむずかしかったからですね。津の国屋――津国屋と書くのがほんとうだそうですが、暖簾にはやはり津の国屋と、のの字を入れてありました。読みいいためでしょう――は何でも地所家作を合わせて二、三千両の身代だったそうです。その頃の二、三千両と云えばこの頃の十万円ぐらいに当るでしょうから、それだけのものをただ取るには並大抵のことではむずかしい。大勢の人間が知恵をしぼって、暇をつぶしても二、三千両の身代を乗っ取れば、まず大出来だったんでしょうよ。今日のようにボロ会社を押っ立てて新聞へ大きな広告をして、ぬれ手で何十万円を掻き込むなんていう、そんな器用な芸当をむかしの人間は知りませんからね。十万円の金を儲けるにも、これほど手数がかかった芝居をしたんです。それを思うと、むかしの悪党は今の善人よりも馬鹿正直だったかも知れませんね。あははははは」  これもやはりほんとうの怪談ではなかった。わたしは何だか一杯食わされたような心持で、老人の笑い顔をうっかりと眺めていた。

「半七捕物帳 津の国屋」岡本綺堂(青空文庫)

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