半七捕物帳 海坊主(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
颶風を告げる品川沖の怪人
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 17,496字
- 読了目安
- 約35分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の一編。前日、品川の潮干狩に出かけて雨に降られた半七老人が、その話から、安政二年三月の潮干狩の日に品川沖に現れた奇怪な男の話を始める。伸び放題の髪に破れた袷と蓑をまとい、裸足でさまよう四十前後の男は、人々に酒や食べ物を振る舞われても一言も口をきかなかったが、やがて「颶風が来る、潮が来る」と叫び出し、その言葉どおりに突風と上げ潮が潮干狩の人々を襲う。人か仙人か気違いか、その正体をめぐって噂が広まるなか、半七は船宿の船頭の話から手がかりを手繰っていく。江戸の春の行楽である潮干狩のにぎわいや、隅田川の夜網、小梅の村の風景が描かれ、海と川をめぐる江戸の暮らしが話の背景になっている。
あらすじ
安政二年三月四日、品川の潮干狩に、髪を長く伸ばし蓑をまとった奇怪な男が現れる。男は口をきかずに振る舞われた酒や食べ物を平らげ、夕方になると「颶風が来る、潮が来る」と叫んで回った。その言葉どおり、晴れた空から突風が吹き下ろし、早い上げ潮に人々は逃げ惑う。築地河岸の船宿山石の船頭清次は、自分の乗せた女客が颶風のさなかにその男と話していたように見えたと言い触らす。半七は清次を探らせるが手がかりは得られない。五月、子分の幸次郎が、隅田川の夜網に生きた男がかかり、生魚を食い、匕首を突きつけて酒をねだったと聞き込んでくる。そこへ清次が、潮干狩の日の女客を小梅で見かけ、その女おとわは深川の旦那に囲われていると知らせてくる。半七は小梅のおとわの家の掃きだめに生魚の骨がたまっているのを見て、女中お千代を問い詰める。怪しい男は物置に住みつき、夜に出歩いては生魚を食い、匕首を振り回していたという。踏み込むとおとわと男は姿を消しており、夜に訪ねて来た旦那の喜兵衛を捕らえると、喜兵衛は品川や房州の沖で船を襲う海賊の頭だった。男は房州沖で海賊船に泳ぎついて江戸まで連れて来られ、海賊たちは潮干狩の日の予言以来、男を船に乗せると稼ぎがよいと信じていた。男の正体は、伊豆の島から泳いで島抜けした上総無宿の海坊主万吉だった。おとわは万吉に連れ去られて羽田沖で死骸となり、万吉は神奈川で捕らえられ、獄門となった。
登場人物
- 半七 神田三河町の岡っ引。品川沖の怪人の正体を探る
- 幸次郎 半七の子分。船宿を回って手がかりを探す
- 清次 築地河岸の船宿山石の若い船頭
- おとわ 小梅に住む女。深川の旦那に囲われている
- お千代 おとわの家の十八の女中
- 喜兵衛 深川の木場の番頭と称するおとわの旦那
冒頭部(原文より)
一 「残念、残念。あなたは運がわるい。ゆうべ来ると大変に御馳走があったんですよ」と、半七老人は笑った。 それは四月なかばのうららかに晴れた日であった。 「まったく残念でした。どうしてそんなに御馳走があったんです」と、わたしも笑いながら訊いた。
「半七捕物帳 海坊主」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
「じゃあ、きのうはその海坊主に天気予報を聞いて行けばよかったですね」と、わたしは云った。 「まったくですよ。ところが、きのうは生憎にそんな奴が出て来なかったので。あははははは」と、老人は又笑った。
「半七捕物帳 海坊主」岡本綺堂(青空文庫)
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