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半七捕物帳 柳原堤の女(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物

柳原の魔所に立つ白い女

  • ミステリ
  • 歴史

岡本綺堂 

文字数
29,898字
読了目安
約1時間
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

岡本綺堂「半七捕物帳」の一編。明治に切り崩された神田川沿いの柳原堤と、その一角にあって昔から魔所と恐れられた小さな岡「清水山」の思い出から語り起こされる。慶応初年の秋、日暮れの清水山のあたりに白地の浴衣で手拭いをかぶった若い女が現れ、からかった中間が青い鬼のような顔を見せられたという噂が広まる。武勇談にかぶれた材木屋の若い衆たちが正体を見届けようと乗り出し、騒ぎは大入道や九尾の狐の噂にまで膨らんでいく。町の噂の広がり方と、怪異の陰にある人の事情を描く、やや長めの一話。

あらすじ

慶応初年の八月、魔所とされる柳原堤の清水山に、白い浴衣の女が夜な夜な現れるという噂が立つ。岩井町の材木屋山卯の若い衆喜平は、木挽の銀蔵と見届けに出かけるが、暗がりで大きな手に横面を張り倒される。大工の勝次郎が同行を名乗り出るものの、仕事場の丸太が二人の上に倒れかかって話は立ち消えになり、建具屋の茂八と踏み込んだ夜には得体の知れない獣に追い返される。噂は九尾の狐だの大入道だのと膨らんで瓦版にまでなり、八丁堀の指図で半七が調べに乗り出す。旗本の中間たちが犬に狩り出させた箱からは、蛇と守宮を釘で打ちつけた藁人形が出たという。半七は丸太を倒したのが山卯の小僧で、頼んだのが勝次郎だと突き止める。勝次郎は、清水山で痣のある女と逢い引きを重ねていたことを白状するが、そのすぐ後に夜道で姿を消す。半七は勝次郎の普請先を洗わせ、雑司ヶ谷の大百姓庄司の家の娘お早に行き着く。重い病の筋を引いて人目を避けていたお早は、普請に来た勝次郎と金ずくで結ばれ、恋しさのあまり雑司ヶ谷から清水山へ通っていた。娘を不憫に思う父が奉公人に陰から警固させ、ついには勝次郎をさらって来させたのである。半七らが訪ねたとき、離れには喉を切られた勝次郎とお早の亡骸が並んでいた。二人は心中として葬られ、のちに喜平らが罠で捕らえた貂のような獣は、両国の見世物に出された。

登場人物

冒頭部(原文より)

なにかの話から、神田の柳原の噂が出たときに、老人はこう語った。 「やなぎ原の堤が切りくずされたのは明治七、八年の頃だと思います。今でも柳原河岸の名は残っていて、神田川の岸には型ばかりの柳が植えてあるようですが、江戸時代には筋違橋から浅草橋までおよそ十町のあいだに高い堤が続いていて、それには大きい柳が植え付けてありましたから、春さきの眺めはなかなかよかったものです。柳原の柳はなくなる、向島の桜はだんだん影がうすくなる、文明開化の東京はどうも殺風景になり過ぎたようですね。いや、むかし者の愚痴ばかりでなく、これはまったくのことですよ。今のお若い方はおそらく御承知ないでしょうが、あの堤に清水山という小さい岡のようなものがありました。場所は筋違橋と柳の森神社とのあいだで、神田川の方にむかった岡の裾に一つの洞穴があって、その穴から絶えず清水をふき出すので、清水山という名が出来たのだそうです。

「半七捕物帳 柳原堤の女」岡本綺堂(青空文庫)

末尾部(原文より)

唯ここに一つの疑問として残されているのは、池崎の中間どもが清水山に犬を入れて啣え出させたという、かの怪しい箱の出所である。これも恐らくは、かのお早の仕業であろうかと察しられるが、何分にもその実物をみないので何とも云えないと、半七老人はわたしに話した。かの貂に似た獣は昔からここに棲んでいたのか、それとも他から入り込んで来たのか、それも判らない。中間どもの放した犬がこの怪しい獣を狩り出さないで、ほかの怪しい箱を啣え出して来たのも、不思議といえば不思議であった。

「半七捕物帳 柳原堤の女」岡本綺堂(青空文庫)

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