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半七捕物帳 槍突き(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物

闇から突き出す槍の正体

  • ミステリ
  • 歴史

岡本綺堂 

文字数
15,443字
読了目安
約31分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

岡本綺堂「半七捕物帳」の一編で、半七自身ではなく先輩格の岡っ引の手柄を語る番外的な話。明治二十五年の春、東京の山の手で夜道の女の顔を切る事件が新聞をにぎわしていたころ、半七老人は「わたし」に、江戸で名高かった「槍突き」の話を又聞きとして聞かせる。文化三年と文政八年の二度、暗がりから槍を持った者が飛び出しては通行人を突き殺す事件が流行り、清元の初代延寿太夫もその犠牲になったという。物は取らずに突いて逃げるだけで、下手人の手がかりはつかめない。本編では、文政八年の秋に葺屋町の岡っ引七兵衛がこの難事件に挑み、駕籠のなかの娘が黒猫に変わったという奇怪な出来事も重なっていく。

あらすじ

文政八年の秋、江戸では暗がりから槍で通行人を突く「槍突き」が再び流行り、物も取らずに逃げるため手がかりがなかった。十月六日、葺屋町の岡っ引七兵衛は手先の岩蔵から、駕籠屋の勘次と富松が柳原の堤で乗せた十七八の娘が蔵前で槍突きに遭い、駕籠のなかには槍に突かれた黒猫の死骸だけが残っていたと聞く。その夜、柳原の堤で頭巾の娘に声をかけた七兵衛は、提灯を叩き落とされて逃げられ、直後に別の何者かに槍で突きかかられる。槍の柄の手触りが樫でなく竹だったことから、七兵衛は町人か百姓の仕業と見て、子分たちに江戸じゅうの竹藪を見張らせる。化け猫の噂を流した勘次らを嚇して空駕籠を担がせ、夜ごと見回るうち、浜町河岸で両国の茶屋女お秋が胸を突かれて死んでいるのを見つける。お秋が口にくわえていた藍色の小指から、槍突きを装って女を殺した紺屋の職人長三郎が捕まる。その長三郎から、甲州の猟師作兵衛が竹藪へ入るのを見たと聞き、七兵衛は作兵衛が下手人と見定める。両国橋で七兵衛は駕籠の娘を見つけ、それが下谷の剣術道場の息子で今牛若と呼ばれる少年内田俊之助の女装だと見抜く。俊之助は槍突きを釣ろうとして女に化け、意趣返しに猫を身代わりに置いて駕籠を抜けたのだった。そこへ立ち聞きしていた作兵衛が刃物で襲いかかり、二人に取り押さえられた。作兵衛は、文化の槍突きは亡き兄の作右衛門の仕業で、自分も華やかな江戸に出て妬ましさから人を突きたくなったと白状し、磔刑になった。

登場人物

冒頭部(原文より)

     一  明治廿五年の春ごろの新聞をみたことのある人たちは記憶しているであろう。麹町の番町をはじめ、本郷、小石川、牛込などの山の手辺で、夜中に通行の女の顔を切るのが流行った。若い婦人が鼻をそがれたり、頬を切られたりするのである。幸いにふた月三月でやんだが、その犯人は遂に捕われずに終った。

「半七捕物帳 槍突き」岡本綺堂(青空文庫)

末尾部(原文より)

「それが又不思議ですよ」と、老人は説明した。「兄貴も弟も博奕がうまいんです。甲州の山奥から出て来た猿のような奴だと思って、馬鹿にしてかかると皆あべこべに巻き上げられてしまうんです。勿論、小ばくちですから幾らの物でもありますまいけれども、どっちもひどく約しい人間で、木賃宿にごろごろして、三度の飯さえとどこおりなく食っていればいいという風でしたから、江戸に暮らしていても幾らもかかりゃしません。そうして、暗い晩になると竹槍をかついであるく。実に乱暴な奴らで、兄弟揃ってそんな人間が出来たというのは、殺生の報いだろうなんて、その頃の人達は専ら評判していたそうですが、どんなものですかね。何かそういう気ちがいじみた血筋を引いているのか、それともふだんから熊や狼を相手にしているので、自然にそんな殺伐な人間になったのか。さびしい山奥から急に華やかな江戸のまん中へほうり出されたもので、なんだか気がおかしくなったのか。今の世の中でしたら、いろいろの学者たちがよく説明してくれたんでしょうけれど、その時代のことですから、大抵の人は殺生の報いだとか因果だとか、すぐにきめてしまったようです」

「半七捕物帳 槍突き」岡本綺堂(青空文庫)

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