半七捕物帳 妖狐伝(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
鈴ヶ森の縄手に出る悪い狐
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 20,970字
- 読了目安
- 約42分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の一編で、前話「大森の鶏」に続けて語られる。舞台は同じ東海道の鈴ヶ森で、仕置場と「睨みの松」の言い伝えを半七老人が前口上で説明してから本題に入る。開港を控えた安政六年の春、品川沖に英米の軍艦が停泊するなか、鈴ヶ森の縄手に悪い狐が出て通行人を化かすと噂される。異国の船が狐を放したという風聞まで飛ぶなか、半七と子分たちが「狐」の正体を探る。幕末の品川・鮫洲の茶屋に異国の水兵が出入りする世相を描いた一話。
あらすじ
安政六年春、鈴ヶ森の縄手に狐が出ると評判になる。芝田町の小料理屋の伜巳之助は、睨みの松の下で馴染みの女郎お糸に呼び止められるが、相手の顔がのっぺらぼうに見えて首を絞め、直後に何者かに殴り倒される。ところが品川のお糸は無事に勤めていた。京の商人の一行は、松の下で口から火を吐く赤い顔の天狗を見て逃げ出す。八丁堀の指図で、半七は子分の松吉と鈴ヶ森を調べ、睨みの松の陰で異人の巻煙草の吸い殻を拾う。天狗とは品川沖の黒船の水兵だったのである。鮫洲の茶屋坂井屋は異人の客を上げており、そこの女中お糸が先月から姿を消していた。巳之助が会ったのはこのお糸で、彼女は建具屋の伊之助の名を巳之助と取り違えていたのだった。さらに芝の両替屋で、三十七八の女が客の小判をかっさらう騒ぎがあり、同じような女が外国の贋のドル銀貨を両替していたとわかる。湯屋熊の話から入墨者のお此に目をつけた半七は、お此が若い伊之助をお糸から奪うため、お糸を軍艦を抜け出した水兵ジョージと結びつけ、大森の百姓の家に二人をかくまわせていたことを突き止める。マッチの火を飛ばすなどして「狐」騒ぎを面白がっていたのもお此だった。お此は遠島となり、ジョージは浪士に襲われて船へ逃げ戻り、お糸と伊之助はのちに夫婦になったという。
登場人物
- 半七 神田の岡っ引。鈴ヶ森の狐騒ぎを八丁堀の指図で調べる
- 松吉 半七の子分。鈴ヶ森や鮫洲を聞き込みに回る
- 熊蔵 愛宕下の湯屋の亭主で半七の子分。入墨者の出入りに詳しい
- 巳之助 芝田町の小料理屋小伊勢の伜。夜の鈴ヶ森で女に呼び止められる
- お糸 鮫洲の茶屋坂井屋の女中
- お此 入墨者の女。品川で小間物の出商いをしている
冒頭部(原文より)
大森の鶏の話が終っても、半七老人の話はやまない。今夜は特に調子が付いたとみえて、つづいて又話し出した。 「唯今お話をした大森の鶏、鈴ヶ森の人殺し……。それと同じ舞台で、また違った事件があるんですよ。まあ、ついでにお聴きください。御承知の通り、江戸時代の鈴ヶ森は仕置場で、磔刑や獄門の名所です。それですから江戸の悪党なんかは『おれの死ぬときは畳の上じゃあ死なねえ。三尺高い木の空で、安房上総をひと目に見晴らしながら死ぬんだ』なんて大きなことを云ったもんです。鈴ヶ森で仕置になった人間もたくさんありますが、その中でも有名なのは、丸橋忠弥、八百屋お七、平井権八なぞでしょう。みんな芝居でおなじみの顔触れです。
「半七捕物帳 妖狐伝」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
老人は又笑った。狐が人を化かすのでない、人が人を化かすのであるとは、昔から誰も云うことであるが、まったく其の通りで、わたしも半七老人に化かされたらしい。帰るときに老人は云った。 「御安心なさい。山王下に狐は出ませんから……」 思えばそれも三十余年の昔である。その欝憤を今ここで晴らさんが為に、わたしが再び読者諸君を化かしたわけではない。
「半七捕物帳 妖狐伝」岡本綺堂(青空文庫)
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