春の鳥(国木田独歩)のあらすじ・登場人物
城あとで出会った少年
- 心理
- 文字数
- 7,559字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
国木田独歩が1904年(明治37)3月に『女学世界』へ発表した短編。のちに作品集『運命』に収められた。語り手の「私」は地方の町で教師をしており、城あとのある山で一人の少年と出会う。少年を中心に、町の人々の暮らしと、「私」が少年に向ける目が、独歩らしい抒情的な筆致で綴られる。
あらすじ
六、七年前、「私」はある地方の町で英語と数学の教師をしていた。町には城あとの残る城山があり、散歩がてらいつもその山に登っていた。ある日、「私」は城山で、美しい母に手を引かれた一人の少年と出会う。名は六蔵、生まれつき知恵の遅れた白痴の子で、言葉もほとんど話せない。だが両手を広げて鳥の羽ばたきのまねをし、からすの鳴き声をたくみにまねては、無邪気に遊びまわる。その愛らしさに心をひかれた「私」は、六蔵に読み書きを教えようと試みる。けれども、どれほど根気よく教えても、少年の心には文字も言葉も少しも宿らない。それでも六蔵は「私」になつき、城山でともに時を過ごすようになる。ある日のこと、六蔵は城山の高い石垣の上に立ち、いつものように両手を広げて――今度こそ本当に鳥になって飛べると信じたかのように――宙へ身を躍らせ、墜落して命を落としてしまう。わが子を失った母は、六蔵がどんなに鳥を好きだったかを、目の色を変えて「私」に語る。折しも城山の森から舞い立った一羽のからすを、母は茫然と見送るのだった。飛ぶことを夢みて死んだ少年の哀れと、母の悲しみが胸に迫る、独歩後期の抒情的な名編である。
登場人物
- 私 ある地方の町で英語と数学を教える教師。城山で六蔵と出会い、心をひかれる語り手
- 六蔵 生まれつき知恵の遅れた白痴の少年。鳥のまねを好み、空を飛ぼうとして命を落とす
- 六蔵の母 美しく、六蔵を深く慈しむ母。わが子の死を悼む
冒頭部(原文より)
今より六七年前、私はある地方に英語と数学の教師をしていたことがございます。その町に城山というのがあって、大木暗く茂った山で、あまり高くはないが、はなはだ風景に富んでいましたゆえ、私は散歩がてらいつもこの山に登りました。 頂上には城あとが残っています。高い石垣に蔦葛がからみついて、それが真紅に染まっているあんばいなど得も言われぬ趣でした。昔は天主閣の建っていた所が平地になって、いつしか姫小松まばらにおいたち、夏草すきまなく茂り、見るからに昔をしのばす哀れなさまとなっています。
「春の鳥」国木田独歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
「ハイ、六は鳥がすきでしたよ。鳥を見ると自分の両手をこう広げて、こうして」と母親は鳥の羽ばたきのまねをして「こうしてそこらを飛び歩きましたよ。ハイ、そうして、からすの鳴くまねがじょうずでした」と目の色を変えて話す様子を見ていて、私は思わず目をふさぎました。 城山の森から一羽のからすが羽をゆるやかに、二声三声鳴きながら飛んで、浜のほうへゆくや、白痴の親は急に話をやめて、茫然と我れをも忘れて見送っていました。 この一羽のからすを、六蔵の母親がなんと見たでしょう。
「春の鳥」国木田独歩(青空文庫)
原文を読む
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