人でなしの恋(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
土蔵に通う夫と新妻の嫉妬
- 怪奇
- 文字数
- 17,255字
- 読了目安
- 約35分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1926年(大正15年)、「サンデー毎日」に発表した怪奇短編。女性が、十年ほど前の忘れがたい出来事を語る形で物語は進む。水際立った美男子のもとへ嫁いだ彼女は、幸福な新婚のはずが、夫が夜ごと土蔵へ忍んでいく秘密に気づく。耽美と怪奇の気配に満ちた、乱歩の名短編である。
あらすじ
「門野、御存知でいらっしゃいましょう。十年以前になくなった先の夫なのでございます」——女性が、亡くなった夫との日々を語りはじめる。仲人の勧めで、彼女は門野家の水際立った美男子・門野のもとへ嫁いだ。透き通るように青白く、どこか陰気で凄みさえ漂うその美貌に、彼女はすっかり魅せられていた。ところが幸福なはずの新婚生活のさなか、夫が夜ごと寝床を抜け出し、庭の奥の土蔵へと忍んでいくのに気づく。よその女がいるのかと嫉妬に苦しんだ彼女は、ある夜、意を決して夫の後をつける。土蔵の二階から男女の声を聞いた彼女は、翌日、こっそり蔵に入り、長持の中に美しい古人形を見つける。あの女の声は、夫が声色を使っていたのだろうか。人形への恋と知った妻は、嫉妬のあまり、その人形を打ち砕いてしまう。だがその夜、いつまでも戻らぬ夫を案じて土蔵へ走った彼女が見たのは、砕けた人形を抱いて自ら命を絶ち、血の海に横たわる夫の姿だった。人間と土くれとの情死——半ば砕けた人形の唇からしたたる血が、まるで人形自身が笑っているかのように見えるのだった。生身ならぬものへの狂おしい愛を描いた、乱歩耽美怪奇の代表作である。
登場人物
- 私 門野に嫁いだ女。亡き夫との日々を語る
- 門野 水際立った美男子の夫。古人形に恋い焦がれる
冒頭部(原文より)
門野、御存知でいらっしゃいましょう。十年以前になくなった先の夫なのでございます。こんなに月日がたちますと、門野と口に出していって見ましても、一向他人様の様で、あの出来事にしましても、何だかこう、夢ではなかったかしら、なんて思われるほどでございます。
「人でなしの恋」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
見れば、私に叩きひしがれて、半残った人形の唇から、さも人形自身が血を吐いたかの様に、血潮の飛沫が一しずく、その首を抱いた夫の腕の上へタラリと垂れて、そして人形は、断末魔の不気味な笑いを笑っているのでございました。
「人でなしの恋」江戸川乱歩(青空文庫)
原文を読む
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