いちょうの実(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
さよなら、おっかさん
- 幻想
- 文字数
- 2,646字
- 読了目安
- 約5分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
冷えきった明け方、丘の上のいちょうの木から、千人の黄金色の子どもたちが一斉に旅立ってゆく。銀杏の実の落下を、母と子の別れの朝として描いた宮沢賢治の小品。水筒やはっか水を用意して騒ぎ、心細さを打ち明けあう子どもらの会話が、そのまま巣立ちの不安と愛おしさになっている。
あらすじ
そらのてっぺんがカチカチに焼きをかけた鋼のように冷たい、すみきった明け方のこと。丘の上の一本いちょうの木の実たちが、いっせいに目をさましてドキッとした。きょうこそ旅立ちの日なのだ。「ぼくなんか落ちるとちゅうで目がまわらないだろうか」「よく目をつぶっていけばいいさ」——子どもたちは水筒に水を詰め、はっか水を分けあい、慌ただしく支度をする。このいちょうの木は、実は彼らのおかあさんだった。ことしは千人の黄金色の子どもが生まれ、きょういっせいに旅立つ。おかあさんはそれを悲しんで、扇形の黄金の髪の毛をきのうまでにみんな落としてしまった。女の子たちは「どんなとこへいくのかしら」「どこへもいきたくないわね」「おっかさんとこにいたいわ」とささやきあい、やがてたがいに持ち物を分けあって「こごえたらいっしょに死にましょうよ」と言葉を交わす。東の空が白く燃え、光の束が黄金の矢のように飛んできた。北から氷のように冷たい風がゴーッと吹く。「さよなら、おっかさん。」「さよなら、おっかさん。」——子どもらはみんな一度に雨のように枝から飛びおりた。北風は笑って去り、お日さまは燃える宝石のように東の空にかかって、悲しむ母親の木と旅に出た子どもらとに、あらんかぎりの輝きを投げてやったのだった。
登場人物
- いちょうの子どもたち 千人の黄金色の実。旅立ちの朝を迎える
- おっかさんの木 丘の上の一本いちょう
冒頭部(原文より)
そらのてっぺんなんかつめたくてつめたくてまるでカチカチのやきをかけた鋼です。 そして星がいっぱいです。けれども東の空はもうやさしいききょうの花びらのようにあやしい底光りをはじめました。 その明け方の空の下、ひるの鳥でもゆかない高いところをするどい霜のかけらが風に流されてサラサラサラサラ南のほうへとんでゆきました。
「いちょうの実」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「さよなら、おっかさん。」「さよなら、おっかさん。」子どもらはみんな一度に雨のようにえだからとびおりました。 北風がわらって、 「ことしもこれでまずさよならさよならっていうわけだ。」といいながらつめたいガラスのマントをひらめかしてむこうへいってしまいました。 お日様はもえる宝石のように東の空にかかり、あらんかぎりのかがやきを悲しむ母親の木と旅にでた子どもらとに投げておやりなさいました。
「いちょうの実」宮沢賢治(青空文庫)
原文を読む
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