一席話(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
のらくら者を襲う野の夢
- 怪奇
- 幻想
- 文字数
- 6,015字
- 読了目安
- 約12分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 千葉県
この作品について
1912年(明治45年)1月の日付をもつ短編。上総の百姓の次男・小助は、働かずに遊び暮らす、手に負えないのらくら者である。講談の一席を聞くような調子で語られ、小助が重ねる不始末と、その報いのような野原の一夜が、簡潔に描かれる。
あらすじ
上総の田地二十石を耕す百姓の家に、のらくら者の次男・小助がいた。堅実な兄・元太郎に比べ、働かず、友達にも嫌われて、病気の真似をして寝込む。両親と兄が野良へ出た留守、兄嫁のお艶が薬を飲ませに行くと、小助は襲いかかる。そこへ元太郎が帰ってきて、黙って出ていった。お艶は恥じて、その日のうちに首を括って死んだ。小助は風呂敷包みを持って家を飛び出し、評判の娘お秋のもとへ行って、路用の金をねだる。お秋が着物と帯まで差し出したところを母親に見つかり、折檻されて入江に身を投げた。小助はそれも知らず、瓜井戸の野原で夜を明かそうと草の上に寝ていると、猫の声が耳もとで鳴く。見ると、月の下で糸車が回り、黒い毛の猫の声がお秋のものとそっくりだった。やがて白い糸が肩から胴へ巻き付き、締めつけられて呻いたところで目が覚める。冷や汗を拭い、小助は何事もなかったように歩き出した。語り手は、こんな男が、近ごろのさばって都へ入りこんでいる、と結ぶ。
登場人物
- 小助 のらくら者の次男。色男気取りで、世が世ならと口癖にする
- 元太郎 小助の兄。実直で孝行な働き者
- お艶 元太郎の妻。体が弱く、控えめ
- お秋 山手の家の娘。十七歳で評判の美人
冒頭部(原文より)
上總國上野郡に田地二十石ばかりを耕す、源五右衞と云ふ百姓の次男で、小助と云ふのがあつた。兄の元太郎は至極實體で、農業に出精し、兩親へ孝行を盡し、貧しい中にもよく齊眉き、人づきあひは義理堅くて、村の譽ものなのであるが、其の次男の小助は生れついたのらくらもの。晝間は納屋の中、鎭守の森、日蔭ばかりをうろつく奴、夜遊びは申すまでもなし。色が白いのを大事がつて、田圃を通るにも編笠でしよなりと遣る。炎天の田の草取などは思ひも寄らない。 兩親や兄の意見などは、蘆を吹く風ほども身に染みないで、朋輩同士には、何事にも、直きに其の、己が己ががついてつて、あゝ、世が世ならばな、と口癖のやうに云ふ。尤も先祖は武家出であらうが、如何にも件の、世が世ならばが、友だちの耳に觸つて聞苦しい。自然につきあつて遊ぶものも少なくなる。對手もなければ小遣もなく、まさか小盜賊をするほどに、當人氣位が高いから身を棄てられず。内にのら/\として居れば、兩親は固より、如何に人が好いわ、と云つて兄じや人の手前、据膳を突出して、小楊枝で奧齒の加穀飯をせゝつては居られぬ處から、色ツぽく胸を壓へて、こゝがなどと痛がつて、溜息つく/″\と鬱いだ顏色。
「一席話」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
恐しいよりも、夢と知れて嬉しさが前に立つた。暫時茫然として居た。が、膚脱ぎに成つて冷汗をしつとり拭いた。其の手拭を向う顱卷、うんと緊めて氣を確乎と持直して、すた/\と歩行出した。 ――こんなのが、此の頃、のさ/\と都へ入込む。
「一席話」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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