泉ある家(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
山の泉の家で聞く夜の気配
- 心理
- 文字数
- 3,030字
- 読了目安
- 約6分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 岩手県
この作品について
宮沢賢治の短い散文作品。郡の土性調査を頼まれて山を歩いた二人の青年、斉田と富沢が、日暮れの泉のほとりで出会った老人の家に泊めてもらう。台所の物音、酔った男たちの声、老人と孫娘の事情をうかがわせる夜のやりとりが、会話を中心に静かに綴られる。地質を調べる若者の目を通して、山間の鉱山のそばに暮らす人々のささやかな、しかし切実な暮らしを描いた断片的な物語。
あらすじ
郡から土性調査を頼まれた斉田と富沢は、夕暮れの県道で最後の岩石標本を採ったあと、泉のほとりで蕗を水に浸している髪の白い老人に宿を尋ねる。老人は、鉱山で聞いたのはうちのことだが汚いのでと言い、二人を蘆の囲いの奥の小さな家に案内する。足を洗って戻ると、床の間には天照大神の掛軸があり、台所から二十ばかりの眼の大きな女が夕食を運んできて、干した川魚の煮物と塩漬けの胡瓜を並べる。二人は女を老人の孫娘と見当をつけ、仕事を整理してうとうと眠る。夜、剣舞の囃しを叫ぶ老人の声で目がさめると、台所に男たちが集まっていて、男の一人が老人をたしなめ、娘が取りなす声が聞こえる。やがて酔った男がやってきて戸をたたき、老人は「返事するな」と低く言うが、娘は起きて土間に下り、戸を開けて男と細い声で話をする。二人はしばらく押し問答をしたあと家のなかに入ってきて、衣ずれの音がし、気兼ねと恥で緊張した老人が悲しげに息を呑む音がする。
登場人物
- 斉田・富沢 郡の依頼で土性調査をしている二人の青年
- 老人 泉のそばの小さな家に住む、髪の白い老人
- 女(孫娘らしい) 夕食を運ぶ眼の大きな二十ばかりの女
冒頭部(原文より)
これが今日のおしまいだろう、と云いながら斉田は青じろい薄明の流れはじめた県道に立って崖に露出した石英斑岩から一かけの標本をとって新聞紙に包んだ。 富沢は地図のその点に橙を塗って番号を書きながら読んだ。斉田はそれを包みの上に書きつけて背嚢に入れた。 二人は早く重い岩石の袋をおろしたさにあとはだまって県道を北へ下った。
「泉ある家」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
外ではいよいよ暴れ出した。とうとう娘が屏風の向うで起きた。そして(酔ったぐれ、大きらいだ。)とどうやらこっちを見ながらわびるように誘うようになまめかしく呟いた。そして足音もなく土間へおりて戸をあけた。外ではすぐしずまった。女はいろいろ細い声で訴えるようにしていた。男は酔っていないような声でみじかく何か訊きかえしたりしていた。それから二人はしばらく押問答をしていたが間もなく一人ともつかず二人ともつかず家のなかにはいって来てわずかに着物のうごく音などした。そしていっぱいに気兼ねや恥で緊張した老人が悲しくこくりと息を呑む音がまたした。
「泉ある家」宮沢賢治(青空文庫)
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