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人外魔境 遊魂境(小栗虫太郎)のあらすじ・登場人物

死体が橇を駆る「冥路の国」

  • 冒険
  • ミステリ

小栗虫太郎 1940年(昭和15年)6月 「新青年」

文字数
20,504字
読了目安
約41分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

小栗虫太郎が1939年(昭和14年)から『新青年』に連載した秘境冒険小説シリーズ「人外魔境」の一編。世界の魔境を踏破した鳥獣採集人・折竹孫七の体験を、作家の「私」が書き起こす。舞台はグリーンランド中部の氷河と酷寒に閉ざされた未踏の高原「セル・ミク・シュア」、エスキモーが「冥路の国」と恐れる地である。そこへは死んだはずの者が橇を駆って向かうという。ニューヨークで折竹のもとに「未知の国の所在を売る」という奇妙な手紙が届き、暗黒街の大親分ルチアノもまた、極北の何かを狙って彼に近づいてくる。曲馬団の奇獣と怪力の日本人女芸人を巻き込んで、氷原の探検と国際的な陰謀が交錯する。発表当時の時局を色濃く映した一編でもある。

あらすじ

ニューヨークの折竹孫七のもとに、K・Mと名乗る者から、まだ誰も知らない国の所在を買わないかという手紙がたびたび届く。さらに暗黒街の大親分ルチアノと情婦フローが訪れ、行き先は明かさずに北の氷の地への同行を求めてくる。折竹は友人ケプナラとウィンジャマー曲馬団を訪ね、海豹と海象の混血の奇獣「鯨狼」を鑑定する。この奇獣が唯一なつくのが、身の丈五尺九寸の日本人の力持ち女芸人おのぶサンだった。鯨狼を売ったクルト・ミュンツァこそ手紙の主だった。父ミュンツァ博士は潜水船で北極へ向かったまま、「冥路の国に近し、グリーンランド内地に新領土を発見す」という謎の無電を残して消えていた。クルトは鯨狼の捕獲位置を明かしかけたところを狙撃される。折竹は検事ロングウェルの支援を得て探検隊を組み、ルチアノ一味の船に追われながら氷原へ入る。極寒の行軍のなか、折竹は「冥路の国」の怪を、エスキモーに冬眠に似た生理があるためではないかと考える。やがて逃げ出した鯨狼が落ちた氷の割れ目から海水が見つかり、グリーンランドを分かつ海峡の存在が明らかになる。北側は無主の島であり、本国が追認すれば日本の領土になるのだった。ところが氷海嘯の夜、ケプナラは死に、もう一人の白人隊員も姿を消す。避難の伝言をわざと伝えなかったおのぶサンは、真の黒幕はロングウェルで、ルチアノと組んで新しい陸地を手に入れるため折竹を利用し、事が済めば殺すつもりだったと明かす。言えない恋心を抱えたまま、おのぶサンは折竹を救ったのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

死体、橇を駆る  いよいよ本篇から、魔境記も大ものばかりになってくる。まず、その手初めが“Ser-mik-suah”グリーンランド中部高原の北緯七十五度あたり、氷河と峻険と猛風雪と酷寒、広茫数百の氷河を擁する未踏地中のそのまた奥。

「人外魔境 遊魂境」小栗虫太郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

 おのぶサンは、それだけしか言えなかった。こみあげてくる恋情を、言い得ない悲しさ。折竹も、感謝の気持溢れるようななかにも、氷海嘯のため、食糧の大部分をうしない、「冥路の国」探検を断念せねばならぬ、切なさ。ただ、米大州に現われたはじめての日本領を、政府が追認するのを切に祈りながら……。氷罅のなかでブランブランに揺れていたのだ。

「人外魔境 遊魂境」小栗虫太郎(青空文庫)

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