アプリで読む

無料・登録不要

女難(国木田独歩)のあらすじ・登場人物

女難の相を卜われた男

  • 恋愛
  • 心理

国木田独歩 1903年(明治36年)12月 「文藝界」

文字数
22,675字
読了目安
約45分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都
  • 神奈川県

この作品について

銀座の街頭と鎌倉の浜とで二度出会った盲目の尺八吹きが、「自分」に語って聞かせる半生の物語。幼い日に売卜者から「女難がある」と占われた男は、母の戒めを受けながらも山里の娘を身ごもらせて逃げ、東京では隣家の大工の妻と通じ、ついには眼と職とを失って流しの身に落ちる。哀切な尺八の音を枠として、運命に流されるほかない気弱な男の一生が語られる。

あらすじ

銀座の四辻で尺八を吹く盲人を見かけた「自分」は、その夏、避暑先の鎌倉の浜で再びその男に出会い、家へ招いて身の上を尋ねる。男の名は修蔵。城下の貧しい士族の子で、幼いころ売卜者から「一生涯女に気をつけてゆけ」と女難を告げられた。母はそれを信じて女の恐ろしさを説き続けたが、十二のときには早くも近所の娘に可愛がられ、内心ではそれを嬉しく思っていた。祖母と母を失い、叔母の家から小学校の教師に出た十九の春、隣村の武之允に欺かれるようにして、その妹のお幸と結ばれる。やがて身ごもったと知らされ、夫婦になれと迫られた修蔵は、叔母に言い出すこともできず、女難から逃れようとして、ひとり夜の闇に紛れて土地を逃げ出してしまう。東京では十年の辛苦の末に鉄道局の雇いとなるが、長屋の隣に住む大工・藤吉と親しくなり、その妻お俊と通じてしまう。藤吉が親方との悶着から横浜へ働きに出ると、お俊は修蔵の家に移り、二人はすっかり夫婦気取りで暮らした。ところがそのころ眼病にかかって職を失い、視力が衰えていくと、お俊は頭領に連れられてあっさり去っていく。すべては罰だと語り終えた盲人は、最後にもう一曲を吹いて去り、翌日はもう鎌倉に姿を見せなかった。

登場人物

冒頭部(原文より)

今より四年前のことである、(とある男が話しだした)自分は何かの用事で銀座を歩いていると、ある四辻の隅に一人の男が尺八を吹いているのを見た。七八人の人がその前に立っているので、自分もふと足を止めて聴く人の仲間に加わった。  ころは春五月の末で、日は西に傾いて西側の家並みの影が東側の家の礎から二三尺も上に這い上っていた。それで尺八を吹く男の腰から上は鮮やかな夕陽に照されていたのである。  夕暮近いので、街はひとしおの雑踏を極め、鉄道馬車の往来、人車の東西に駈けぬける車輪の音、途を急ぐ人足の響きなど、あたりは騒然紛然としていた。この騒がしい場所の騒がしい時にかの男は悠然と尺八を吹いていたのである。それであるから、自分の目には彼が半身に浴びている春の夕陽までがいかにも静かに、穏やかに見えて、彼の尺八の音の達く限り、そこに悠々たる一寰区が作られているように思われたのである。

「女難」国木田独歩(青空文庫)

末尾部(原文より)

二人は出て行きました。私は泣くこともわめくこともできません、これは皆な罰だと思いますと、母のやつれた姿や、孕んだまま置き去りにして来たお幸の姿などが眼の前に現われるのでございます。  役所は免められ、眼はとうとう片方が見えなくなり片方は少し見えても物の役には立たず、そのうち少しの貯蓄はなくなってしまいました。それから今の姿におちぶれたのでございますが、今ではこれを悲しいとも思いません、ただ自分で吹く尺八の音につれて恋いしい母のことを思い出しますと、いっそ死んでしまったらと思うこともございますが死ぬることもできないのでございます」  盲人は去るにのぞんでさらに一曲を吹いた。自分はほとんどその哀音悲調を聴くに堪えなかった。恋の曲、懐旧の情、流転の哀しみ、うたてやその底に永久の恨みをこめているではないか。  月は西に落ち、盲人は去った。翌日は彼の姿を鎌倉に見ざりし。

「女難」国木田独歩(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品