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十万石(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

鳥籠の戒めと幼君の英断

  • 歴史

泉鏡花 1897年(明治30年)10月

文字数
7,637字
読了目安
約15分
表記
旧字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 長野県

この作品について

松代十万石の藩主・真田幸豊と、藩政改革で知られる恩田杢(恩田木工)を取り上げた、短い歴史逸話。署名は泉鏡太郎で、末尾に1897年(明治30年)10月とある初期の作品。上では十五歳の幼君が、飼鳥を勧めた近侍を鳥籠に入れて戒める話、下では財政難の藩を救うため若い杢を改革奉行に抜擢する話が、文語調の落ち着いた文章で語られる。鏡花の幻想的な作風とは違う、講談を思わせる教訓譚である。

あらすじ

【上】松代十万石の城主・真田伊豆守幸豊は、わずか十五歳ながら聡明で徳が高い。近侍が気晴らしに飼鳥を勧めると、幼君は見事な鳥籠を作らせ、さらに勧めた近侍その人を籠に入れて食事を供し、「一生その中で暮らせ」と言い渡す。近侍が涙を流して許しを乞うと、幼君は、人でさえ耐えられない籠に、天地を翔ける鳥を閉じ込める無慈悲を諭す。籠は戒めのため床に据えさせ、近侍には忠義をねぎらう金子を与えた。【下】川中島の領地は損毛が多く、藩の財政は逼迫していた。幼君は人知れず調べさせ、清貧ながら家内の治まった恩田杢を見込む。江戸で親類一同の賛同を得て、国許の老職たちを呼び寄せ、杢を改革奉行に命じる。老職たちが不満をこらえて誓文に血判するなか、幼君は「予が十万石勝手にいたせ」と杢に託す。

登場人物

冒頭部(原文より)

 こゝに信州の六文錢は世々英勇の家なること人の能く識る處なり。はじめ武田家に旗下として武名遠近に轟きしが、勝頼滅亡の後年を經て徳川氏に歸順しつ。松代十萬石を世襲して、松の間詰の歴々たり。  寶暦の頃當城の主眞田伊豆守幸豐公、齡わづかに十五ながら、才敏に、徳高く、聰明敏達の聞え高かりける。

「十万石」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

 老職の輩は謂ふも更なり、諸役人等も、愈出でて、愈不平なれども、聰明なる幼君をはじめ、御一門の歴々方、殘らず御同意と謂ひ、殊に此席に於て何といふべき言も出でず、私ども儀、何事に因らず改革奉行の命令に背き候まじく、いづれも杢殿手足となりて、相働き、忠勤を勵み可申候と、澁々血判して差上ぐれば、御年役一應御覽の上、幸豐公に參らせ給へば、讀過一番、頷き給ひ、卷返して高く右手に捧げられ、左手を伸べて「杢、」「は」と申して御間近に進出づれば、件の誓文をたまはりつ。幼君快活なる御聲にて、「予が十萬石勝手にいたせ。」

「十万石」泉鏡花(青空文庫)

原文を読む

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