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革鞄の怪(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

鍵を捨てた男と花嫁の袖

  • 恋愛
  • 心理

泉鏡花 1914年(大正3年)

文字数
10,395字
読了目安
約21分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

末尾に大正3年(1914年)2月と記された短編。長野の旅館で、連れの男が「革鞄の中で声がする」と訴える場面から、話は昼の汽車の中へさかのぼる。大きな古革鞄を抱えた乗客と、嫁入りの途中らしい美しい娘、その袖がふとした拍子に鞄の口へ挟まる。怪談のような出だしだが、中心は車内に居合わせた人々の前で語られる男の告白と、鞄をめぐる静かな決着にある。見世物小屋の記憶や汽車の揺れの描写も、短い時間の緊張を伝える。

あらすじ

長野の旅館で、連れの男は夜中、「革鞄の中で声がする」と騒ぎ出す。話はその朝の汽車へさかのぼる。上野から乗り合わせた男は、飛騨の山中の郵便局へ赴任する逓信省の技手で、象を胴切りにしたような古革鞄を片時も離さない。高崎で乗り込んだ嫁入り姿の娘の紋付の袖が、いつのまにか鞄の口に挟まれ、継母の剣幕のもと、人々が鞄を開けようとする。男は立ち上がり、挟んだのは自分だと告白する。偶然だったが、娘への未練から錠を下ろし、鍵を窓の外へ投げ捨てたという。妻と子を亡くし、その遺骨も位牌も鞄に納めて赴任する身だった。次の駅で、継母が荷を運ぼうとするのを娘が止め、自ら袖の縫い目を引き裂く。緋の襦袢の片袖をのぞかせた娘がプラットフォームで汽車を見送り、語り手は涙して男の手を握った。

登場人物

冒頭部(原文より)

「いや、まったくだから変なんです。馬鹿々々しい、何、詰らないと思う後から声がします。」 「声がします。」 「確かに聞えるんです。」  と云った。私たち二人は、その晩、長野の町の一大構の旅館の奥の、母屋から板廊下を遠く隔てた離座敷らしい十畳の広間に泊った。

「革鞄の怪」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

二の腕に颯と飜えって、雪なす小手を翳しながら、黒煙の下になり行く汽車を遥に見送った。  百合若の矢のあとも、そのかがみよ、と見返る窓に、私は急に胸迫ってなぜか思わず落涙した。  つかつかと進んで、驚いた技手の手を取って握手したのである。  そこで知己になった。

「革鞄の怪」泉鏡花(青空文庫)

原文を読む

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