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影(アンデルセン)のあらすじ・登場人物

影に主人の座を奪われる

  • 幻想
  • 翻訳

アンデルセン 訳者 楠山正雄 

文字数
14,781字
読了目安
約30分
表記
新字新仮名

この作品について

アンデルセンが1847年4月に発表した童話(原題 Skyggen)を、児童文学者の楠山正雄が訳したもの。暑い国へやって来た北国の学者が、冗談で向かいの家へ行かせた自分の影を失い、数年後に立派な人間の姿になった影と再会する。影は主人と立場を入れ替えようとする。子ども向けの愛らしい空想というより、立場の逆転と、真理や詩と世間との隔たりを描いた、苦い寓話の趣が強い。童話のなかでも大人の読者に読み継がれてきた作品として知られる。

あらすじ

寒い北国から暑い国へ来た若い学者は、向かいの家のバルコニーで、花の間に美しい少女の光を見る。冗談のつもりで影に向かいの家へ入ってこいと言うと、影は本当に戻らなくなってしまう。やがて新しい影が生え、学者は故国へ帰って真善美についての本を書く。数年後、痩せた身なりのいい男が訪ねてくる。それは、人間の姿になって金も地位も得た、あの影だった。影は、向かいの家に住んでいたのは詩で、自分は人の隠れた悪事を見聞きして世渡りの種にしたと語る。再び訪れた影は、病みやつれた学者に旅の同行を持ちかける。学者は影の旅費で旅に出て、今度は学者が影、影が主人という立場になる。温泉場で、物がはっきり見えすぎる病を持つ王女が影を気に入り、影は難しい問いを学者に答えさせて王女に賢さを信じこませる。影は王女との結婚を決め、学者に、一生影として暮らすなら厚遇すると持ちかける。学者が断ると、影は先に王女のもとへ行き、学者が気がふれて自分を影だと言い張っているのだと話して、牢に入れてしまう。王女は、この哀れな影を処分してやるのが功徳だと言う。結婚式の晩、町じゅうが祝う中、学者はすでに処刑されていた。

冒頭部(原文より)

 あつい国ぐにでは、お日さまが、やきつくように強く照りつけます。そこではたれでも、マホガニ色に、赤黒くやけます。どうして、そのなかでも、ごくあつい国では、ほんものの黒んぼ色にやけてしまうのです。  ところが、こんど、寒い北の国から、ひとりの学者が、そういうあつい国へ、そんなつもりではなく出てきました。この人は国にいるじぶんの気で、こちらにきても、ついそこらをぶらつくことができるつもりでいました。でもさっそく、その考えはかえて、この人も、この国のせけんなみに、やはりじっとしていなければなりませんでした。どこの家も、それは、窓も戸も、まる一日しめきりで、中にいる人は、ねているのか、どこかよそへ出ているとしかおもえないようでした。この人の下宿している高いたてもののつづきのせまい通りは、おまけに朝から晩まで、日がかんかんてりつけるようなぐあいにできていて、これはまったくたまらないことでした。

「影」アンデルセン(青空文庫)

末尾部(原文より)

「まあ、かわいそうな影法師ですこと。」と、王女はさけびました。「ずいぶん不幸ですわ。それをはかない命から自由にしてやるほうが、ほんとうの功徳というものでしょうね。わたしの考えでは、どうやらそれは、そのままそっと片づけてしまうのが、なによりのようですわ。」 「それはいかにもつらいことです。なにぶん忠義な召使でしたから。」こう影はいって、ためいきをつくようなふうをしました。 「りっぱなお気性ですわ。」と王女はいいました。その晩、町じゅうあかりがついて、ドーン、ドーン、とお祝の大砲がなりひびきました。それから兵隊は捧げ銃しました。結婚式がおこなわれたのです。王女と影とは、バルコニに姿をあらわして、人民たちにあいさつをたまわり、もういちど人民たちから万歳の声をあびました。  学者は、まるでこのさわぎを聞かなかった、というわけは、そのまえ、もうとうに死刑にされていたからです。

「影」アンデルセン(青空文庫)

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