火事とポチ(有島武郎)のあらすじ・登場人物
火事を知らせてくれた犬
- 家族
- 文字数
- 9,636字
- 読了目安
- 約19分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
有島武郎の童話で、1922年(大正11年)に発表された。冬の夜、飼い犬ポチの鳴き声で目を覚ました「ぼく」は、寝ていた部屋の戸棚が燃えているのを見る。高台の官舎町にある家が火事になった一夜と、その後の数日を、子どもの話し言葉の一人称で描く。家族の誰よりも先に異変を知らせたポチは、居留地に住む父の友人の西洋人がくれた、耳が長く尾のふさふさした大きな犬だった。夜道を走って近所に火事を知らせる心細さ、焼け跡で拾い物をする楽しさなど、子どもの目に映った出来事が、平易な文の積み重ねで伝えられる。
あらすじ
冬の夜、ポチの鳴き声で目を覚ましたぼくは、戸棚の中が燃え、祖母がぬれた布で火をたたいているのを見る。祖母に払いのけられたぼくは離れの父母を起こし、母に言われて、暗がりで見つけた大きなぞうりをはいて外へ飛び出し、近所の家々の門をたたいて火事を知らせて回る。家に戻る途中、妹と弟を抱えて走る大男を人さらいの乞食と思って後をつけると、それは近所の橋本のおじさんで、ぼくたちは橋本家で家が焼けるのを見ながら夜を明かした。母屋は焼けたが離れは残り、家族にけがはなかった。火は泥棒がつけたらしいとわかり、六人は小さな離れで暮らしはじめる。三日目の朝、祖母がポチの夢を見たと言い出し、ポチが吠えて火事を知らせてくれたことを皆が思い出す。家族はみな、忠義なポチがいなくなったのを忘れていたのだ。ぼくと妹と弟は官舎町から山の森までポチを探し回り、ポチがいなくなったのはお前のせいだと妹と言い争って泣き出す。そこへ人足が、ポチがひどいけがをして物置の陰にいると知らせにくる。全身にやけどを負い、血と泥にまみれたポチは立つこともできなかった。ぼくはポチを一度でもぶったことを悔い、父と体を洗ってやり、藁の寝床を作る。医者の手当てを受け、牛乳で煮たおかゆを食べたポチのそばに、ぼくと妹は夜まで付き添った。しかし翌朝、父はポチは死んだよと言った。ポチの墓は今も、あの乞食が住んでいた森の寺の庭にあるだろうかと、ぼくは思う。
登場人物
- ぼく 語り手の男の子。竹男
- ポチ ぼくの家の犬。父の友人の西洋人がくれた大きな犬
- おばあさま ぼくの祖母。自分の部屋から出た火を一人で消そうとする
- 橋本のおじさん 近所の人。ぼくの妹と弟を連れ出してくれる
- 妹 ぼくの妹。一緒にポチを探す
冒頭部(原文より)
ポチの鳴き声でぼくは目がさめた。 ねむたくてたまらなかったから、うるさいなとその鳴き声をおこっているまもなく、真赤な火が目に映ったので、おどろいて両方の目をしっかり開いて見たら、戸だなの中じゅうが火になっているので、二度おどろいて飛び起きた。そうしたらぼくのそばに寝ているはずのおばあさまが何か黒い布のようなもので、夢中になって戸だなの火をたたいていた。なんだか知れないけれどもぼくはおばあさまの様子がこっけいにも見え、おそろしくも見えて、思わずその方に駆けよった。そうしたらおばあさまはだまったままでうるさそうにぼくをはらいのけておいてその布のようなものをめったやたらにふり回した。それがぼくの手にさわったらぐしょぐしょにぬれているのが知れた。
「火事とポチ」有島武郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
とうとう夜になってしまった。夕御飯でもあるし、かぜをひくと大変だからといっておかあさんが無理にぼくたちを連れに来たので、ぼくと妹とはポチの頭をよくなでてやって家に帰った。 次の朝、目をさますと、ぼくは着物も着かえないでポチの所に行って見た。おとうさんがポチのわきにしゃがんでいた。そして、「ポチは死んだよ」といった。ポチは死んでしまった。 ポチのお墓は今でも、あの乞食の人の住んでいた、森の中の寺の庭にあるかしらん。
「火事とポチ」有島武郎(青空文庫)
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