花間文字(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
牡丹に咲いた詩
- 幻想
- 文字数
- 1,676字
- 読了目安
- 約3分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
泉鏡花の掌編。唐の文人・韓愈(昌黎)と、その甥で仙術を使う韓湘にまつわる伝説を、漢文調の引き締まった文体で綴る。花を咲かせる術と、詩の言葉が重なる幻想的な味わいがある。明治41年(1908)4月の成立。
あらすじ
晩唐の名家、韓昌黎の甥の韓湘は、学問をせず、行いも放逸だった。叔父に叱られた湘は、不思議な桃の花びらを口にして見せ、花を咲かせる術があるから書を読まないのだと答える。湘は庭の牡丹に屏風を立てて七日こもり、術が成ると言う。咲いた牡丹には一輪ごとに詩が浮かんでいたが、昌黎にはその意が分からない。のち昌黎は仏骨の表を奉って潮州へ流される途中、雪の藍関で馬が進まなくなる。そこへ湘が現れ、あの詩の意を知らせ、別れ際に一握りの雪を授ける。昌黎が袖に受けると、雪は香りを放って花びらに変わった。
登場人物
- 韓昌黎(韓愈) 晩唐の名家
- 韓湘 昌黎の甥。花を咲かせる術を使う
冒頭部(原文より)
晩唐一代の名家、韓昌黎に、一人の猶子韓湘あり。江淮より迎へて昌黎其の館に養ひぬ。猶子年少うして白皙、容姿恰も婦人の如し。然も其の行ひ放逸にして、聊も學ぶことをせず。學院に遣はして子弟に件はしむれば、愚なるが故に同窓に辱めらる。更に街西の僧院を假りて獨り心靜かに書を讀ましむるに、日を經ること纔に旬なるに、和尚のために其の狂暴を訴へらる。
「花間文字」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
袖を捲いて面を拂へば、遙に其の雲の中に、韓湘あり。唯一人、雪を冒して何處よりともなく、やがて馬前に來る。其の蓑紛々として桃花を點じ、微笑して一揖す。叔公其の後はと。昌黎、言ふこと能はず、涙先づ下る。韓湘曰く、今、公、花間の文字を知れりや。昌黎默然たり。時に後れたる從者辛うじて到る。昌黎顧みて、詢うて曰く、此の地何處ぞ。藍關にて候。さては、高きは秦嶺也。昌黎嗟嘆すること久うして曰く、吾今にして仙葩を視たり。汝のために彼の詩を全うせんと。韓文公が詩集のうちに、一封朝奏九重天―云々とあるもの則是。於茲手を取りて泣きぬ。韓湘慰めて曰く、愴むこと勿れ、吾知る、公恙あらず、且つ久しからずして朝廷又公を用ふと。別るゝ時一掬の雪を取つて、昌黎に與へて曰く、此のもの能く潮州の瘴霧を消さん、叔公、御機嫌ようと。昌黎馬上に是を受けて袖にすれば、其の雪香しく立處に花片となんぬとかや。
「花間文字」泉鏡花(青空文庫)
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