河明り(岡本かの子)のあらすじ・登場人物
河の水がよびさます恋の物語
- 心理
- 文字数
- 49,244字
- 読了目安
- 約1時間38分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本かの子が1939年(昭和14年)、「中央公論」に発表した短編小説。作家である「私」が、書きあぐねている物語の娘の性格を掴もうと、大川(隅田川)の潮の満ち干を感じる河沿いの家に移り住む。そこで「私」は、その家の実在の娘と、彼女がかつて経験した数奇な恋の物語に出会い、水と河のイメージに導かれながら、自らの創作へと立ち返っていく。水への官能的な感受性と、生命への深い洞察とを、かの子が濃密な文体でつづった晩年の名品である。
あらすじ
作家である「私」は、いま書き続けている物語のなかの娘の性格に、どうしても物足りないものを感じていた。環境を変えれば雰囲気も変わるかと思い立った「私」は、大川の潮がひたひたと窓近くに満ちてくる河沿いの家へと移り住む。水のほとりに身を置きたいという、抑えがたい望みに従ってのことだった。その家には、実際に一人の娘がいた。彼女はかつて、土俗地理学者の青年と恋におち、河をさかのぼるようにしてその恋を探り、やがて河が海へと流れ定まるように、遠い海の果ての土地へと嫁いでいったのだという。娘のその数奇な恋の物語を親しく聞き知るなかで、「私」の水への感じ方は、しだいに深く変わっていく。河には、乳房のような無限の水源があり、末には無限に包容する大海がある――その首尾のあいだを流れる河には、無限性が蔵されているにちがいない。仄かに障子を照らす「河明り」を眺めながら、「私」は、自分の物語の娘の性格を、はじめから書き直そうという新たな決意へと導かれていく。水と生命への官能的な洞察を、かの子が濃密な文体で結晶させた晩年の名品である。
登場人物
- 私 書きあぐねた物語の娘の性格を掴もうと、河沿いの家に移り住む作家
- この家の娘 かつて土俗地理学者の青年と恋におち、河をさかのぼり、やがて遠い海辺の土地へ嫁いでいった
- 土俗地理学者 娘のかつての恋人。娘とともに河上を探った青年
冒頭部(原文より)
私が、いま書き続けている物語の中の主要人物の娘の性格に、何か物足りないものがあるので、これはいっそのこと環境を移して、雰囲気でも変えたらと思いつくと、大川の満ち干の潮がひたひたと窓近く感じられる河沿いの家を、私の心は頻りに望んで来るのであった。
「河明り」岡本かの子(青空文庫)
末尾部(原文より)
すればこの仄かな河明りにも、私が曾て憧憬していたあわれにかそけきものの外に、何か確乎とした質量がある筈である――何かそういうものが、はっきり私に感じられて来ると、結局、私は私の物語の娘の性格の更生に、始めから私の物語を書き直す決意にまで、私の勇気を立至らしめたのである。
「河明り」岡本かの子(青空文庫)
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