虔十公園林(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
杉七百本を植えた虔十
- 心理
- 文字数
- 4,915字
- 読了目安
- 約10分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 岩手県
この作品について
宮沢賢治が書き、その死後に発表された童話。少しばかり足りないとみなに笑われる若者・虔十(けんじゅう)が、まわりの反対を押し切って荒れ地に七百本の杉の苗を植えたことから物語は始まる。杉林はやがて子どもたちの遊び場となり、「ほんとうのさいわい」とは何かを問いかける。報われることを求めぬ無償の善を、賢治が静かにうたいあげた童話である。
あらすじ
虔十(けんじゅう)は、いつも縄の帯をしめて、意味もなくわらっている、少しばかり足りないと村の人たちに思われている若者だった。雨の中の青い藪や、青空を翔ける鷹を見てはよろこび、子どもたちにばかにされてもにこにこしている。そんな虔十が、あるとき生まれて初めて、家族に「杉苗七百本、買ってくれ」とねだる。みんなは反対するが、兄がとりなして、虔十は野原のような荒れ地に、一本一本ていねいに杉の苗を植えていく。土が悪くて杉は育つまいと笑われながらも、虔十は下草を刈り、大切に世話を続け、やがて杉はまっすぐな林になっていく。ところが、そのころ流行った病気(腸チフス)で、虔十は若くしてあっけなく世を去ってしまう。時は流れ、村はすっかり町に変わっていくが、虔十の植えたあの杉林だけは、昔のまま残されて、子どもたちの格好の遊び場となっていた。やがて村の出身のある博士が帰郷し、この林こそ、あの虔十がたった一人で育てたものだと知って、村人にこれを「虔十公園林」と名づけて残すことを勧める。何千人もの子どもたちに、ほんとうのさいわいとは何かを教え続けるその林を通して、賢治は、報われることを求めぬ無償の善の、はかりしれぬ尊さを静かにうたいあげる。
登場人物
- 虔十 縄の帯をしめてわらっている、少し足りないとみなに思われる若者。荒れ地に七百本の杉を植えて大切に育てるが、若くして病で世を去る
- 博士 村出身の学者。帰郷して杉林が虔十の遺したものと知り、これを「虔十公園林」として残すよう勧める
冒頭部(原文より)
虔十はいつも縄の帯をしめてわらって杜の中や畑の間をゆっくりあるいているのでした。 雨の中の青い藪を見てはよろこんで目をパチパチさせ青ぞらをどこまでも翔けて行く鷹を見付けてははねあがって手をたたいてみんなに知らせました。 けれどもあんまり子供らが虔十をばかにして笑うものですから虔十はだんだん笑わないふりをするようになりました。
「虔十公園林」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
虔十のうちの人たちはほんとうによろこんで泣きました。 全く全くこの公園林の杉の黒い立派な緑、さわやかな匂、夏のすずしい陰、月光色の芝生がこれから何千人の人たちに本当のさいわいが何だかを教えるか数えられませんでした。 そして林は虔十の居た時の通り雨が降ってはすき徹る冷たい雫をみじかい草にポタリポタリと落しお日さまが輝いては新らしい奇麗な空気をさわやかにはき出すのでした。
「虔十公園林」宮沢賢治(青空文庫)
名文
ああ全くたれがかしこくたれが賢くないかはわかりません。ただどこまでも十力の作用は不思議です。
虔十の植えた杉林が子供たちの遊び場として残ったことを知った博士の言葉。愚かだと笑われた虔十の行いの価値を認め、人の賢さを測る物差しそのものを問い直す。
原文を読む
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