硯友社と文士劇(江見水蔭)のあらすじ・登場人物
紅葉と仲間たちの文士劇
- 風刺
- 文字数
- 7,081字
- 読了目安
- 約14分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
- 東京都
この作品について
尾崎紅葉を頭取とする硯友社が、明治二十三年の正月に初めて上演した文士劇の思い出を、一座の一員だった江見水蔭が綴った回想。紅葉が自ら鬘を買い付けに走り、巌谷小波や石橋思案らが役に就いて稽古を重ねる様子と、本番で次々に起こる失敗を、親しみを込めて書き留める。明治の文壇の内輪の空気と、硯友社の気風が伝わる随筆。
あらすじ
明治二十三年の正月、硯友社は演劇改良の声が高まるなか、文士が揃って新作を上演する初の文士劇に挑んだ。総頭取は紅葉で、最初に出た『八犬伝』は伏姫の愛犬を写実で演じるという悪ふざけの案が出て、お蔵になる。代わって水蔭の新作史劇『増補太平記』大塔宮十津川落と、広津柳浪の立案を水蔭が四幕に書き卸した『積怨恨切子燈籠』、大切の『花競八才子』が選ばれた。稽古の前から事件は続く。紅葉は鬘を安く揃えようと自ら大森の製造元へ出向いたが、使いを頼まれた水蔭は帰り道の九段坂で葛籠の縄を切らし、中の鬘を道に撒き散らして顔を赤くする。根岸での稽古でも、殺陣師の坂東甚五郎が暗闇で庭の池に落ちる。一月五日、小石川の佐藤家で開演すると、失敗は百出する。近眼の思案と小波の立廻りは真剣勝負のようだと依田学海に激賞され、幽霊役の煙の仕掛けは幽霊の足に火傷を負わせ、花道では槍が揚幕に刺さった虚心が出遅れ、幕引きの係を決め忘れて小波が客席へ転げ落ちる。二番目でも、思案の大頭に鬘が納まらず幕明きが十分延び、暖簾の絵に頭をぶつけて鬘を落とし、観客は喝采する。敵討ちの場では、漁山が大見得で前を拡げ過ぎて場内が大笑いとなり、小道具の首が鬘のない坊主頭のままで小波が袖で隠す始末だった。水蔭は第二回、第三回も似たような滑稽だったがここで筆を擱くと結ぶ。
登場人物
- 江見水蔭 筆者。一座の一員で、大塔宮の臣・野長瀬六郎や蒲地左衛門を演じ、狂言方・後見も務める
- 尾崎紅葉 硯友社の総頭取。鬘の買い付けまで自分で手配し、二番目では庄屋の役を軽く演じる
- 巌谷小波 宗虎丸と娘役のお徳を演じる
- 石橋思案 近眼で頭が大きく、片岡八郎や下男を演じる
- 川上眉山 大塔宮役。美しさが評判になる
- 広津柳浪 『積怨恨切子燈籠』の筋を立案した
- 坂東甚五郎 殺陣を教えに呼ばれた殺陣師。帰り際に庭の池へ落ちる
冒頭部(原文より)
演劇改良の声が漸く高まりかけた明治二十三年の正月、硯友社は、初めて文士劇を実演した。それまでに各所で素人芝居が開演されぬでは無かつたが、たとへそれは遊戯的に終つたとしても、兎に角文士が揃つて新作の脚本を上演したといふ事は、当時に於て一大驚異で有つたのだ。
「硯友社と文士劇」江見水蔭(青空文庫)
末尾部(原文より)
以上が硯友社劇の第一回で、その二回、三回と、似たり寄たりの滑稽を演じたが、それはあまりに長くなるので、此辺で筆を擱く。
「硯友社と文士劇」江見水蔭(青空文庫)
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