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ナポレオンと田虫(横光利一)のあらすじ・登場人物

田虫に重ねる皇帝の興亡

  • 風刺

横光利一 1926年(昭和元年) 「文藝時代」

文字数
8,868字
読了目安
約18分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

横光利一が1926年(大正15年)、「文藝時代」に発表した短編小説。新感覚派の旗手・横光が、皇帝ナポレオンの腹にはびこる田虫(たむし)を、彼の征服と没落の歴史に重ね合わせて描いた、奇抜で諧謔にみちた寓話である。ナポレオンの腹の上で、田虫がその版図をじわじわと広げていくさまを、大軍の進軍や戦役の描写と交錯させ、鋭敏な比喩と斬新な感覚で綴る。新感覚派の実験精神が横溢する異色作。

あらすじ

皇帝ナポレオン・ボナパルトの、剛壮に張り出した腹――そこには、一匹の田虫(たむし)が棲みついていた。チュイレリー宮殿の観台で虹と対峙するナポレオンの威容をよそに、その腹の上では、田虫がじわじわと勢力を広げつつある。物語は、ナポレオンがヨーロッパを席巻していく征服の歴史と、彼の腹にひろがっていく田虫の「版図」とを、たくみに交錯させながら進んでいく。田虫が皮膚を侵し、紫色の塹壕を築き、細毛の森林を食い破って拡大していくさまは、まるでナポレオンの大軍が国々を蹂躙していく戦役そのもののようだ。だが、征服の栄光の頂点で、連戦連勝に血を見過ぎた兵たちが気が狂っていくように、田虫の版図もまた、やがて没落へと向かう。ロシアへ向けて進軍するナポレオンの数十万の大軍を、河岸の丘から眺めるその腹の上で、田虫の帝国もまた滅びの気配をはらんでいる。皇帝の栄枯盛衰と、腹の田虫の消長とを重ね合わせた、新感覚派・横光の奇抜で諧謔にみちた寓話である。

登場人物

冒頭部(原文より)

一  ナポレオン・ボナパルトの腹は、チュイレリーの観台の上で、折からの虹と対戦するかのように張り合っていた。その剛壮な腹の頂点では、コルシカ産の瑪瑙の釦が巴里の半景を歪ませながら、幽かに妃の指紋のために曇っていた。

「ナポレオンと田虫」横光利一(青空文庫)

末尾部(原文より)

 ナポレオンは河岸の丘の上からそれらの軍兵を眺めていた。騎兵と歩兵と砲兵と、服色燦爛たる数十万の狂人の大軍が林の中から、三色の雲となって層々と進軍した。砲車の轍の連続は響を立てた河原のようであった。朝日に輝いた剣銃の波頭は空中に虹を撒いた。栗毛の馬の平原は狂人を載せてうねりながら、黒い地平線を造って、潮のように没落へと溢れていった。

「ナポレオンと田虫」横光利一(青空文庫)

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