気のいい火山弾(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
からかわれても笑う石
- 幻想
- 風刺
- 文字数
- 4,056字
- 読了目安
- 約8分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
死火山のすそ野の柏の木のかげに座る黒い石「ベゴ」と、その周りの稜のある石、柏、おみなえし、苔、蚊たちとのやりとりを描く童話。気のいいベゴ石は、からかわれても怒らず、穏やかに受け流す。火山弾という地質学の用語をそのまま題に取り、石を人のように話させる擬人化の中に、世の評価と本当の価値という主題をさりげなく置く。賢治の鉱物・地質への親しみがよく出た一篇。
あらすじ
ある死火山のすそ野の柏の木のかげに、ベゴというあだ名の大きな黒い石が座っている。卵を平たくしたような形で、帯のような二本の筋が巻いており、一度も怒ったことがない。霧の日になると稜のある石たちは退屈しのぎにベゴ石をからかうが、ベゴ石はていねいに受け流し、噴火のとき空で回ったのは臆病のせいかもしれないと言われても、そうかもしれないと笑う。柏はベゴ石より大きくなったと自慢し、おみなえしは黄金の冠をかぶったと言い、ベゴ石の上に生えた苔は赤い頭巾をかぶって、「ベゴ黒助どんどん」と歌って馬鹿にする。蚊までが、ベゴ石は何の役にも立たないと悪口を言う。そこへ眼鏡をかけた四人の学者が器械を持って来て、ベゴ石を見て、帯の整った火山弾の典型で、大英博物館にもない立派な標本だと驚く。昼すぎ、村の人と荷馬車を連れて戻った学者たちは、苔をむしって藁とむしろでベゴ石を包み、「東京帝国大学校地質学教室行」の札をつけて運び去る。ベゴ石は苔に礼を言い、みんな自分にできることをしなければならないと告げて、野原を後にする。
登場人物
- ベゴ石 大きな黒い火山弾。気のいい石
- 稜のある石たち ベゴ石をからかう石
- 柏・おみなえし・苔・蚊 ベゴ石を見下す野原の仲間
- 四人の学者 標本を探しに来る地質学者
冒頭部(原文より)
ある死火山のすそ野のかしわの木のかげに、「ベゴ」というあだ名の大きな黒い石が、永いことじぃっと座っていました。 「ベゴ」と云う名は、その辺の草の中にあちこち散らばった、稜のあるあまり大きくない黒い石どもが、つけたのでした。ほかに、立派な、本とうの名前もあったのでしたが、「ベゴ」石もそれを知りませんでした。
「気のいい火山弾」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「さあ、大切な標本だから、こわさないようにして呉れ給え。よく包んで呉れ給え。苔なんかむしってしまおう。」 苔は、むしられて泣きました。火山弾はからだを、ていねいに、きれいな藁や、むしろに包まれながら、云いました。 「みなさん。ながながお世話でした。苔さん。さよなら。さっきの歌を、あとで一ぺんでも、うたって下さい。私の行くところは、ここのように明るい楽しいところではありません。けれども、私共は、みんな、自分でできることをしなければなりません。さよなら。みなさん。」 「東京帝国大学校地質学教室行、」と書いた大きな札がつけられました。 そして、みんなは、「よいしょ。よいしょ。」と云いながら包みを、荷馬車へのせました。 「さあ、よし、行こう。」 馬はプルルルと鼻を一つ鳴らして、青い青い向うの野原の方へ、歩き出しました。
「気のいい火山弾」宮沢賢治(青空文庫)
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