木精(森鴎外)のあらすじ・登場人物
ハルロオと呼べば答える山
- 心理
- 文字数
- 2,629字
- 読了目安
- 約5分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1910年(明治43)1月に発表された掌編。山の谷間で「ハルロオ」と呼ぶと、必ず木精が答える。その当たり前を喜びとしてきた少年フランツと木精の関係が、ある朝を境に揺らぐ。ヨーロッパの山村を思わせる舞台で、短い文を畳みかけながら、子供の素朴な不思議と寂しさを描く。
あらすじ
険しい岩が屏風のように立つ谷間で、少年フランツは幼いころから、「ハルロオ」と呼んでは、大きく鈍い声で答える木精を楽しみにしていた。やがて父の手伝いをするようになり、長いあいだ岩の前に来ずにいたが、雪解けの朝、久しぶりに来て呼ぶと、木精は答えない。何度待っても、谷川の音ばかりが聞こえる。フランツは「木精は死んだのだ」とつぶやいて村へ帰る。しかし夕方、気になってまた岩の所へ行くと、晴れた空の下で、木精の声が賑やかに聞こえる。岩の前に見知らぬ七人の子供が集まって呼んでおり、木精が答えている。麓の新しい村の子供たちらしい。木精が死んでいなかったと知って、フランツの顔には喜びが閃く。けれども、自分のハルロオにだけは答えなかったのだと思うと、もう自分は呼ぶことを廃そうと考え、村へ帰っていく。
登場人物
- フランツ 麻のような金髪の少年。谷間で木精を呼ぶ
- 七人の子供 麓の新しい村から来たらしい、見知らぬ子供たち
冒頭部(原文より)
巌が屏風のように立っている。登山をする人が、始めて深山薄雪草の白い花を見付けて喜ぶのは、ここの谷間である。フランツはいつもここへ来てハルロオと呼ぶ。 麻のようなブロンドな頭を振り立って、どうかしたら羅馬法皇の宮廷へでも生捕られて行きそうな高音でハルロオと呼ぶのである。 呼んでしまってじいっとして待っている。 暫くすると、大きい鈍いコントルバスのような声でハルロオと答える。 これが木精である。
「木精」森鴎外(青空文庫)
末尾部(原文より)
フランツは何と思ってか、そのまま踵を旋らして、自分の住んでいる村の方へ帰った。 歩きながらフランツはこんな事を考えた。あの子供達はどこから来たのだろう。麓の方に新しい村が出来て、遠い国から海を渡って来た人達がそこに住んでいるということだ。あれはおおかたその村の子供達だろう。あれが呼ぶハルロオには木精が答える。自分のハルロオに答えないので、木精が死んだかと思ったのは、間違であった。木精は死なない。しかしもう自分は呼ぶことは廃そう。こん度呼んで見たら、答えるかも知れないが、もう廃そう。
「木精」森鴎外(青空文庫)
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