氷と後光(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
氷の窓に差す後光と親の祈り
- 家族
- 文字数
- 3,469字
- 読了目安
- 約7分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 舞台
- 岩手県
この作品について
宮沢賢治の短い散文作品。雪の夜を走る夜行列車で、赤ん坊を連れた若い夫婦が一夜を過ごし、盛岡で夜明けを迎える。窓に咲く氷の結晶、車内の蒸気と林檎のにおい、赤ん坊の頭のあたりで朝日が「後光」に見えるまでを、会話を中心に淡々と描く。父親が幼い子の将来にひそかに寄せる祈りが、最後に仏教的な響きをもって語られる、小さな家族の情景である。
あらすじ
雪と月あかりの中を夜行列車が走り、赤い天鵞絨の頭巾をかぶった幼子が窓の下で眠っている。若い父と母は、岩手県に入った車窓の景色や、子の口もとや目が誰に似ているかを小声で語り合う。夜更けに車内の暖房が止まり、にわかに冷え込むが、子は眠りつづける。峠を越えて暖房が戻り、列車が盛岡に停まるころ、夜は明ける。窓はいちめんに氷の結晶で飾られ、乗り込んできた人々の外套も霜で白い。母が子に乳をやり、朝日が昇ると氷は極光のように輝く。赤い林檎を持たされた子の頭のあたりで氷が後光のように光るのを見て、母がそっと言うと、父は少し泣くように笑う。この子が大きくなってすべての生き物のために無上の悟りを求めるなら、そのとき本当にその光がこの子に来るのだと父は語る。それは親にはかなしくも思われるが、そう祈らなければならないのだ、と。母は黙って下を向き、すっかり昼になった車内で、子は林檎を投げるようにして「バア」と声を上げる。
登場人物
- 若い父 妻と幼子を連れて夜行列車に乗る。子の将来にひそかな祈りを寄せる
- 若い母 眠る子を見守り、朝には乳をあげる
- 幼子 赤い天鵞絨の頭巾をかぶった赤ん坊
冒頭部(原文より)
「ええ。」 雪と月あかりの中を、汽車はいっしんに走ってゐました。 赤い天鵞絨の頭巾をかぶったちひさな子が、毛布につつまれて窓の下の飴色の壁に上手にたてかけられ、まるで寢床に居るやうに、足をこっちにのばしてすやすやと睡ってゐます。 窓のガラスはすきとほり、外はがらんとして青く明るく見えました。
「氷と後光」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「あら、この子の頭のとこで氷が後光のやうになってますわ。」若いお母さんはそっと云ひました。若いお父さんはちょっとそっちを見て、それから少し泣くやうにわらひました。 「この子供が大きくなってね、それからまっすぐに立ちあがってあらゆる生物のために、無上菩提を求めるなら、そのときは本當にその光がこの子に來るのだよ。それは私たちには何だかちょっとかなしいやうにも思はれるけれども、もちろんさう祈らなければならないのだ。」 若いお母さんはだまって下を向いてゐました。 こどもは苹果を投げるやうにしてバアと云ひました。すっかりひるまになったのです。
「氷と後光」宮沢賢治(青空文庫)
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