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幸福のうわおいぐつ(アンデルセン)のあらすじ・登場人物

拾えば幸福とは限らない

  • 幻想
  • 翻訳

アンデルセン 訳者 楠山正雄 

文字数
31,735字
読了目安
約1時間3分
表記
新字新仮名

この作品について

アンデルセンが1838年5月に発表した童話(原題 Lykkens Kalosker)を、児童文学者の楠山正雄が訳したもの。履いた者が望みの時代や場所へ運ばれるという「幸福のうわおいぐつ」が、コペンハーゲンの夜会の控え間に置かれたことから、司法参事官、夜番、病院の助手、警察の書記、神学生と、次々に履き手を替えて巡っていく。望みがかなうたびに思わぬ結果が待っていて、幸福とは何かをユーモアと風刺をまじえて問いかける。当時のデンマークの街や人物、詩の引用が多く、訳注が付く。アンデルセンの童話としては長めの一篇。

あらすじ

コペンハーゲンの夜会の控え間で、幸福の女神に仕える妖女が、履いた者を望みの時代や場所へ運ぶ「幸福のうわおいぐつ」を戸口に置いていく。心配の妖女は、これを履いた者はきっと不幸になると言う。最初に履いたのは、中世を賛美する司法参事官だった。ハンス王時代へ運ばれた参事官は、ぬかるみの町で言葉も通じず散々な目に遭い、うわおいぐつが脱げて元の東通に戻ると、今の世のほうがずっとましだと悟る。次にそれを履いた夜番は、金も妻子もない中尉を羨むと中尉の体に入り、中尉もまた夜番を羨んで二人は元に戻る。月を間近で見たいと口にした夜番は、魂だけが月へ飛び、体は死体として病院へ運ばれるが、うわおいぐつを脱がされて息を吹き返す。置き去りにされた履物をはいた病院の助手は、鉄の柵に首を挟まれて動けなくなり、朗読会で聞いた詩に誘われて人々の心の中を巡って錯乱する。続いて拾った警察の書記は、詩人になりたいと願って詩人になり、ひばりになりたいと願ってひばりになるが、子どもに捕まって籠の鳥にされ、からくも逃げ帰る。最後に履いた神学生は、旅に出たいと願ってスイスとイタリアを旅するが、疲れと不平が尽きず、一番幸福なものを求めると、そのまま死んで棺に横たわる。そこへ心配の妖女が来て、神学生の足のうわおいぐつを脱がせ、神学生は目を覚まし、うわおいぐつは消えてなくなる。

冒頭部(原文より)

 コペンハーゲンで、そこの東通の、王立新市場からとおくない一軒の家は、たいそうおおぜいのお客でにぎわっていました。人と人とのおつきあいでは、ときおりこちらからお客をしておけば、そのうち、こちらもお客によばれるといったものでしてね。お客の半分はとうにカルタ卓にむかっていました。あとの半分は、主人役の奥さんから、今しがた出た、 「さあ、こんどはなにがはじまりしましょうね。」というごあいさつが、どんな結果になってあらわれるかと、手ぐすねひいて、待っているのです。もうずいぶんお客さま同士の話がはずむだけはずんでいました。そういう話のなかには、中世紀時代の話もでました。あるひとりは、あの時代は今の時代にくらべては、くらべものにならないほどよかったと主張しました。じっさい司法参事官のクナップ氏などは、この主張にとても熱心で、さっそく主人役の奥さんを身方につけてしまったほどでした。そうしてこのふたりは*エールステッドが年報誌上にかいた古近代論の、現代びいきな説にたいして、やかましい攻撃をはじめかけたくらいです。

「幸福のうわおいぐつ」アンデルセン(青空文庫)

末尾部(原文より)

「まあ、どうして。」と、心配がいいました。「この人はじぶんで出て行ったので、まだ召されたわけではなかったのですよ。この人の精神はまだ強さが足りないので、当然掘り起さなければならないはずの宝を掘り起さずにしまいました。わたしはこの人に好いことをしてやりましょう。」  こういって、心配は学生の足のうわおいぐつをぬがしてやりました。すると、死の眠がおしまいになって、学生は目をさまして立ちあがりました。心配の姿は消えました。それといっしょにうわおいぐつも消えてなくなりました。――きっと心配が、そののちそれをじぶんの物にして、もっているのでしょう。

「幸福のうわおいぐつ」アンデルセン(青空文庫)

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