桑の木物語(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
庭に植えた二本の桑
- 心理
- 文字数
- 39,825字
- 読了目安
- 約1時間20分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
「杏花亭筆記」に、奔放にして無埒、つねに奇矯のおこないが多かったと記された土井悠二郎。二十一で致仕して市中にかくれ、親族や旧知とも断って無為に一生を終えたというその男の、記録に残らなかった半生を描く長編。幼君のお相手として庭に植えた二本の桑の木が、二人の生涯を静かに結びつづける。
あらすじ
その藩に伝わる「杏花亭筆記」という書物は、土井悠二郎についてこう記している。忠左衛門茂治の二男に生まれ、わけがあって七歳まで町家に育った。八歳の春から幼君のお相手として御殿へあがり、ずっとお側去らずに仕えたが、二十一のとき致仕した。生れつき奔放にして無埒、つねに奇矯のおこないが多く、勤めかたよろしからずとしばしば記されている。致仕してのちは市中にかくれ、親族や旧知とも断って無為に一生を終えた——物語は、この素っ気ない記録の裏側を語り直してゆく。……九月に上屋敷へ帰った若君は、庭師に命じて桑を二本植えさせた。そんなものはお屋敷の庭へ植えるものではないと庭師は渋ったが、若君がきかないので、内証ですからと言って日月亭の裏に二本植えられた。「こっちは若、こっちはおまえのにしよう」——若君は悠二郎にそう囁く。町家育ちの悠二郎が持ち込んだ庶民の暮らしの手ざわりが、御殿のなかの幼い主君に何を与えたのか。二人の交わりは、奇矯とも無埒とも見える悠二郎の振る舞いの底で続いてゆく。歳月が流れ、桑の葉が揺れる庭で、二人はまた言葉を交わす。「それよりもっとだ、勘右衛門よりなが生きをする、――聞えるか、おれは八十まで生きるつもりだぞ、聞いているのか、悠二郎」。桑の葉が揺れ、悠二郎がなにやらもごもご答えるのが聞こえた。正篤は摘み溜めた実を口へ入れ、すばやく指で眼を拭いた。
登場人物
- 土井悠二郎 奔放にして無埒と記された男
- 正篤 悠二郎が仕えた幼君
- おみつ 悠二郎の幼なじみ
冒頭部(原文より)
一 その藩に伝わっている「杏花亭筆記」という書物には、土井悠二郎についてあらまし次のように記している。 「土井右衛門、名は悠二郎。忠左衛門茂治の二男に生れ、わけがあって七歳まで町家に育った。八歳の春から幼君のお相手として御殿へあがり、ずっとお側去らずに仕えたが、二十一のとき致仕した。
「桑の木物語」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「それよりもっとだ、勘右衛門よりなが生きをする、――聞えるか、おれは八十まで生きるつもりだぞ、聞いているのか、悠二郎」 桑の葉が揺れ、悠二郎のなにやらもごもご答えるのが聞えた。正篤は摘み溜めた実を口へ入れ、すばやく指で眼を拭いた。
「桑の木物語」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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