ロンリー・マン(山川方夫)のあらすじ・登場人物
屍体の始末を考える夜
- ミステリ
- 文字数
- 2,098字
- 読了目安
- 約4分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
むし暑いせまい部屋を歩きまわりながら、「私」はひたすら屍体の処理方法を考えている——山川方夫が「宝石」に発表したごく短い一編。ポーの故智、大学の屍体置場、マンホール、デモの雑踏。仕事と現実の境目が音もなく外れる、乾いた恐怖の小品。
あらすじ
厚い壁にさえぎられ、隣の物音ひとつとどかないアパートの一室。それが「私」の城だった。うるさいところでは仕事なんかできない。喉がかわいて台所で水を飲み、机の抽出しからチョコレートを出してかじり、ベッドに腰をかけたところで、彼は思い出す。明日の午前十時にはO氏がやってくる。それまでにどうしても片づけてしまわねばならないのだ。……習慣どおり仰向けに横になり、サイドテーブルに四枚のチョコレートと灰皿を置いて、彼は天井を穴のあくほどみつめる。問題は屍体の処理方法だ。殺すところまでは行ってしまっている。首には他殺のやりかたで紐が巻きつけてある。いわゆる「発作的兇行」のあと、いかにして屍体を湮滅するか——そこに焦点はしぼられているのだ。デモの雑踏にほうりこむ、大学の屍体置場に捨てる、マンホールに落とす。どれも運搬が大変だ。では、煮てしまうのはどうだろう。溶けた部分を風呂場からながし、骨は根気よく叩いて粉にする。これなら一人の人間の「失踪」は完全だ。——二、三時間がたち、彼はむっくりと起き上がって、いつもの癖で妻の肩をたたく。「おい、できたぜ!」。だが壁の方を向いたまま、妻はなんの反応も示さない。
登場人物
- 私 アイデアを考えるのが仕事の男
- 妻 ベッドに横たわったまま動かない
- O氏 明日の朝、アパートに来る予定の男
冒頭部(原文より)
私は汗を拭いた。いくら拭いても汗がながれてくる。部屋はひどくむし暑かった。 電灯がぼんやりと意識の隅で光っていた。 私は放心にちかい状態にいたのだったかもしれない。脚だけが小止みなく動いていた。目は絨毯だけをみつめ、だが、私はそこに何の考えも眺めていたのではなかった。……私は、せまい部屋の中を、さっきから歩きつづけていたのだ。
「ロンリー・マン」山川方夫(青空文庫)
末尾部(原文より)
が、壁の方を向いたまま、妻は答えない。何の反応も示さないのだ。 ……突然、私は思い出した。おしゃべりな彼女の唇は、もう、二度とひらかないのだ。 数時間まえ、私がありったけの力をこめて締めた彼女の首を巻いた紐が、死んだ蛇のように、そのままの形でベッドの上にうねっていた。 なんとなく、私は最後のチョコレートを口にほうりこんだ。 部屋のむし暑さがかえってきた。
「ロンリー・マン」山川方夫(青空文庫)
原文を読む
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