アプリで読む

無料・登録不要

ロンリー・マン(山川方夫)のあらすじ・登場人物

屍体の始末を考える夜

  • ミステリ

山川方夫 1960年(昭和35年)10月 「宝石」

文字数
2,098字
読了目安
約4分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

むし暑いせまい部屋を歩きまわりながら、「私」はひたすら屍体の処理方法を考えている——山川方夫が「宝石」に発表したごく短い一編。ポーの故智、大学の屍体置場、マンホール、デモの雑踏。仕事と現実の境目が音もなく外れる、乾いた恐怖の小品。

あらすじ

厚い壁にさえぎられ、隣の物音ひとつとどかないアパートの一室。それが「私」の城だった。うるさいところでは仕事なんかできない。喉がかわいて台所で水を飲み、机の抽出しからチョコレートを出してかじり、ベッドに腰をかけたところで、彼は思い出す。明日の午前十時にはO氏がやってくる。それまでにどうしても片づけてしまわねばならないのだ。……習慣どおり仰向けに横になり、サイドテーブルに四枚のチョコレートと灰皿を置いて、彼は天井を穴のあくほどみつめる。問題は屍体の処理方法だ。殺すところまでは行ってしまっている。首には他殺のやりかたで紐が巻きつけてある。いわゆる「発作的兇行」のあと、いかにして屍体を湮滅するか——そこに焦点はしぼられているのだ。デモの雑踏にほうりこむ、大学の屍体置場に捨てる、マンホールに落とす。どれも運搬が大変だ。では、煮てしまうのはどうだろう。溶けた部分を風呂場からながし、骨は根気よく叩いて粉にする。これなら一人の人間の「失踪」は完全だ。——二、三時間がたち、彼はむっくりと起き上がって、いつもの癖で妻の肩をたたく。「おい、できたぜ!」。だが壁の方を向いたまま、妻はなんの反応も示さない。

登場人物

冒頭部(原文より)

 私は汗を拭いた。いくら拭いても汗がながれてくる。部屋はひどくむし暑かった。  電灯がぼんやりと意識の隅で光っていた。  私は放心にちかい状態にいたのだったかもしれない。脚だけが小止みなく動いていた。目は絨毯だけをみつめ、だが、私はそこに何の考えも眺めていたのではなかった。……私は、せまい部屋の中を、さっきから歩きつづけていたのだ。

「ロンリー・マン」山川方夫(青空文庫)

末尾部(原文より)

 が、壁の方を向いたまま、妻は答えない。何の反応も示さないのだ。  ……突然、私は思い出した。おしゃべりな彼女の唇は、もう、二度とひらかないのだ。  数時間まえ、私がありったけの力をこめて締めた彼女の首を巻いた紐が、死んだ蛇のように、そのままの形でベッドの上にうねっていた。  なんとなく、私は最後のチョコレートを口にほうりこんだ。  部屋のむし暑さがかえってきた。

「ロンリー・マン」山川方夫(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品