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マッチ売りの少女(アンデルセン)のあらすじ・登場人物

おおみそかの夜のマッチ

  • 幻想
  • 翻訳

アンデルセン 訳者 矢崎源九郎 

文字数
3,468字
読了目安
約7分
表記
新字新仮名

この作品について

アンデルセンが1845年12月、翌年用の暦『デンマーク民衆暦』(Dansk Folkekalender for 1846)に発表した童話(原題「Den lille Pige med Svovlstikkerne」)を、北欧文学者の矢崎源九郎が訳したもの(新潮文庫『マッチ売りの少女 アンデルセン童話集Ⅲ』)。編集者から送られてきた三枚の絵のうち一枚に話を添えるよう頼まれ、マッチを手にした少女の木版画を選んで書いたと伝えられる。雪の降る大みそかの夕暮れ、帽子もかぶらず、大きすぎるスリッパもなくして裸足になった少女が、一本も売れないマッチを抱えて町をさまよう。窓という窓からもれる明かりと、通りまでただようがちょうの焼肉のにおいに満ちた町と、寒さにこごえる小さな少女とを並べて描く、ごく短い作品である。貧しさのうちに亡くなった作者の母の少女時代が着想のもとにあるとする説もある。矢崎訳は、語り手が少女に寄りそって嘆息をもらす語りかけの調子をよく伝えている。

あらすじ

雪の降る大みそかの夕暮れ、帽子もかぶらず靴もはかない少女が、とぼとぼと町を歩いていた。家を出るときにはいていた母親のお古の大きなスリッパは、馬車をよけた拍子になくしてしまった。エプロンにはたくさんのマッチがあるが、一日じゅう歩いても一本も売れず、お金をめぐんでくれる人もいない。売れないまま帰れば父にぶたれるし、すきま風の吹きこむ家も寒いばかりなので、少女は二軒の家の間のすみにうずくまる。こごえた指を暖めようと一本のマッチをすると、大きな鉄のストーブの前にすわっているような気がしたが、火が消えるとストーブも消えた。二本目では、壁がすきとおって焼きがちょうののった食卓が見え、がちょうがナイフとフォークを背中に刺したまま少女のほうへ歩いてくる。三本目では美しいクリスマスツリーの下にいたが、無数のろうそくの光は空へのぼって星になり、その一つが長い尾を引いて落ちていく。少女は、星が落ちるときは誰かの魂が神さまのもとへのぼるのだと、ただ一人自分をかわいがってくれた亡きおばあさんが言っていたのを思い出す。次のマッチの光の中に、そのおばあさんがやさしく立っていた。火が消えればおばあさんも行ってしまうと思った少女は、残りのマッチを全部すり、おばあさんは少女を腕に抱き上げて、光とよろこびのなか天へのぼっていく。寒い新年の朝、家のすみには、頬を赤くし、口もとにほほえみを浮かべた少女がこごえ死んでいた。人々はこの子は暖まろうとしたんだねと言ったが、少女がどんなに美しいものを見たかを知る者はいなかった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 それはそれは寒い日でした。雪が降っていて、あたりはもう、暗くなりかけていました。その日は、一年のうちでいちばんおしまいの、おおみそかの晩でした。この寒くて、うす暗い夕ぐれの通りを、みすぼらしい身なりをした、年のいかない少女がひとり、帽子もかぶらず、靴もはかないで、とぼとぼと歩いていました。  でも、家を出たときには、スリッパをはいていたのです。けれども、そんなものがなんの役に立つでしょう! なぜって、とても大きなスリッパでしたから。むりもありません。おかあさんが、この間まで使っていたものですもの。ですから、とても大きかったわけです。それを、少女ははいて出かけたのですが、通りをいそいで横ぎろうとしたとき、二台の馬車がおそろしい勢いで走ってきたので、あわててよけようとした拍子に、なくしてしまったのです。かたいっぽうは、そのまま、どこかへ見えなくなってしまいました。もういっぽうは、男の子がひろって、いまに赤ん坊でも生れたら、ゆりかごに使うんだ、と言いながら、持っていってしまいました。  こういうわけで、いま、この少女は、かわいらしい、はだしの足で、歩いているのでした。その小さな足は、寒さのために、赤く、青くなっていました。古ぼけたエプロンの中には、たくさんのマッチを入れていました。そして、手にも一たば持っていました。きょうは、一日じゅう売り歩いても、だれひとり買ってもくれませんし、一シリングのお金さえ、めぐんでくれる人もありませんでした。おなかはへってしまい、からだは氷のようにひえきって、みるもあわれな、いたいたしい姿をしていました! ああ、かわいそうに!

「マッチ売りの少女」アンデルセン(青空文庫)

末尾部(原文より)

 そう言って、少女は、たばの中にのこっているマッチを、大いそぎで、みんな、すりました。こうして、おばあさんを、しっかりと、自分のそばにひきとめておこうとしたのです。マッチは、あかあかと燃えあがって、あたりはま昼よりも、もっと明るくなりました。おばあさんが、このときぐらい、美しく、大きく見えたことはありませんでした。おばあさんは、小さな少女を、腕にだき上げました。ふたりは、光とよろこびにつつまれながら、高く高く、天へとのぼっていきました。もう、少女には、寒いことも、おなかのすくようなことも、こわいこともありません。――ふたりは、神さまのみもとに、召されていったのです!  けれども、寒い寒いあくる朝のこと、あの家のすみっこには、小さな少女が頬を赤くして、口もとにはほほえみを浮べて、うずくまっていました。――ああ、でも、死んでいたのです。古い年のさいごの晩に、つめたく、こごえ死んでしまったのでした。あたらしい年のお日さまがのぼって、小さななきがらの上を、照らしました。少女は、マッチのたばをもったまま、うずくまっていましたが、その中の一たばは、もうほとんど、燃えきっていました。  この子は暖まろうとしたんだね、と、人々は言いました。けれども、少女がどんなに美しいものを見たかということも、また、どんな光につつまれて、おばあさんといっしょに、うれしい新年をむかえに、天国へのぼっていったかということも、だれひとり知っている人はありませんでした。

「マッチ売りの少女」アンデルセン(青空文庫)

名文

それはそれは寒い日でした。雪が降っていて、あたりはもう、暗くなりかけていました。その日は、一年のうちでいちばんおしまいの、おおみそかの晩でした。

アンデルセン『マッチ売りの少女』の書き出し。雪の降る大みそかの夕暮れという舞台を、短い文の重なりで静かに描き出す。

とうとう、少女は一本引きぬきました。「シュッ!」ああ、火花が散って、マッチは燃えつきました。暖かい明るいほのおは、まるで、小さなろうそくの火のようでした。

凍えた少女が最初のマッチをする場面。一本の小さな炎がこのあと次々と幻を見せる、物語の扉となる一節。

この子は暖まろうとしたんだね、と、人々は言いました。けれども、少女がどんなに美しいものを見たかということも、また、どんな光につつまれて、おばあさんといっしょに、うれしい新年をむかえに、天国へのぼっていったかということも、だれひとり知っている人はありませんでした。

新年の朝、凍えて亡くなった少女を見た人々の言葉で終わる結び。人々の憐れみと、誰も知らない少女の幸福とが対比される。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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