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みさごの鮨(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

山代の湯女の北国一の情

  • 心理
  • 恋愛

泉鏡花 1923年(大正12年)1月

文字数
23,197字
読了目安
約46分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 石川県

この作品について

加賀の山代温泉を舞台にした泉鏡花の中編。京都の大学教授が旅先で出会う、素朴で大声の湯女お光と、嫉妬深い男に追われる芸妓小春。赤蜻蛉を追う姿を笑われ、心中を思いとどまらせ、そして夜の町で起きる出来事まで、土地の言葉と温泉町の景色を生かして描く。大正12年(1923)1月の日付をもつ。

あらすじ

加賀の山代温泉の旅館近江屋の上段の間に泊まった、京都の大学の仏語の教授榊三吉は、電話の使い方も知らず「北国一」と大声で叫ぶ湯女お光の、物おじしない世話に面食らう。買い物に出た紙屋で、涙を拭っている芸妓小春を見かけた教授は、お光から、嫉妬深く陰気な若旦那「治兵衛坊主」と小春の因縁を聞かされる。午後の散歩で、教授は畑の赤蜻蛉を捕まえようと躍起になり、通りかかった小春にこらえきれぬほど笑われる。一緒にいた男は治兵衛で、小春は男から心中の相談を受けていた。男は小春を殴って蹴るが、教授は割って入って小春を助け、近江屋に連れて帰って膳を並べ、心中などするものではないと諭す。道すがら、雛妓の娘を訪ねてきた盲目の父と幼い弟とも出会う。教授は小春たちに、気兼ねなく一夜を過ごさせようと考える。そこへ治兵衛が刃物を持って忍び込むが、お光が組み伏せ、教授が卑劣さを諭して帰らせる。教授は小春たちを宿に残し、その夜のうちに山中温泉へ発つ。お光は別れ際、教授の外套を形見にほしがり、受け取って嬉しそうに宿へ帰る。その夜更け、総湯の前で、黒い外套の背中が刺される。急報を受けた教授が山代の病院へ駆けつけると、お光は「旦那さんの傍に居て、顔を見る」と言い、自分の髪を切って教授に贈るよう頼んで、息を引き取った。

登場人物

冒頭部(原文より)

「旦那さん、旦那さん。」  目と鼻の前に居ながら、大きな声で女中が呼ぶのに、つい箸の手をとめた痩形の、年配で――浴衣に貸広袖を重ねたが――人品のいい客が、 「ああ、何だい。」 「どうだね、おいしいかね。」  と額で顔を見て、その女中はきょろりとしている。  客は余り唐突なのに驚いたようだった。――少い経験にしろ、数の場合にしろ、旅籠でも料理屋でも、給仕についたものから、こんな素朴な、実直な、しかも要するに猪突な質問を受けた事はかつてない。  ところで決して不味くはないから、 「ああ、おいしいよ。」  と言ってまた箸を付けた。

「みさごの鮨」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

「持たっしゃれ、縋らっしゃれ。ありがたい仏様が見えるぞい。」 「ああい、見えなくなった目でも、死ねば仏様が見られるかね。」 「おお、見られるとも、のう。ありがたや阿弥陀様。おありがたや親鸞様も、おありがたや蓮如様も、それ、この杖に蓮華の花が咲いたように、光って輝いて並んでじゃ。さあ、見さっしゃれ、拝まっさしゃれ。なま、なま、なま、なま、なま。」 「そんなものは見とうない。」  と、ツト杖を向うへ刎ねた。 「私は死んでも、旦那さんの傍に居て、旦那さんの顔を見るんだよ。」 「勿体ないぞ。」  と口のうちで呟いて、爺が、黒い幽霊のように首を伸して、杖に縋って伸上って、見えぬ目を上ねむりに見据えたが、 「うんにゃ、道理じゃ。俺も阿弥陀仏より、御開山より、娘の顔が見たいぞいの。」  と言うと、持った杖をハタと擲げた。その風采や、さながら一山の大導師、一体の聖者のごとく見えたのであった。

「みさごの鮨」泉鏡花(青空文庫)

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