木馬は廻る(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
廻る木馬の上の老ラッパ吹き
- 心理
- 文字数
- 9,819字
- 読了目安
- 約20分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
「探偵趣味」1926年10月号に発表された短編。公園の木馬館で、廻る木馬の中央の台からラッパを吹いて暮らす老楽師と、切符切りをする十八歳の貧しい少女の日常を描く。殺人や謎解きを軸にせず、市井の哀歓を軽やかに綴った一編で、木馬の回転と軍歌の旋律が、貧しさと淡い思慕のなかで繰り返される。
あらすじ
五十過ぎの格二郎は、かつて郷里の活動館の花形だったラッパ吹きで、今は公園の木馬館で、廻る木馬の中央の台から軍歌を吹き鳴らして暮らしている。家には癇癪持ちの古女房と三人の子がおり、貧しい長屋から逃れて木馬館へ通う楽しみは、十八歳の切符切りお冬の顔を見ることだった。帰り道が同じで、彼女の流行おくれのショールを気にかけるうち、七円ほどの新しいショールさえ買ってやれない自分の貧しさに憤りを覚え、やけになってラッパを鳴らす。ある晩、青ざめた若者が木馬に乗り、お冬の尻のポケットに白い封筒を差し込む。付け文だと思い込んだ格二郎は嫉妬するが、洗面所で抜き取ってみると、宛名は男の名で、中身は十円札十枚の入った月給袋だった。巡査に睨まれたスリが押し込んだものらしい。格二郎は迷ったあげく、衝動的にお冬へショールを買ってやると口走り、後に引けなくなる。やがて皆に木馬を廻させ、彼は木馬の上で万歳を叫び、ラッパ抜きの楽隊がそれに応じる。いつものように、木馬は廻り続ける。
登場人物
- 格二郎 五十過ぎのラッパ吹き。木馬館の楽隊
- お冬 木馬館の十八歳の切符切り
- 若者 お冬のポケットに封筒を入れる青ざめた男
冒頭部(原文より)
「ここはお国を何百里、離れて遠き満洲の……」 ガラガラ、ゴットン、ガラガラ、ゴットン、廻転木馬は廻るのだ。 今年五十幾歳の格二郎は、好きからなったラッパ吹きで、昔はそれでも、郷里の町の活動館の花形音楽師だったのが、やがてはやり出した管絃楽というものに、けおされて、「ここはお国」や「風と波と」では、一向雇い手がなく、遂には披露目やの、徒歩楽隊となり下って、十幾年の長の年月を荒い浮世の波風に洗われながら、日にち毎日、道行く人の嘲笑の的となって、でも、好きなラッパが離されず、仮令離そうと思ったところで、外にたつきの道とてはなく、一つは好きの道、一つは仕様事なしの、楽隊暮しを続けているのだった。
「木馬は廻る」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
「ここはお国を何百里、離れて遠き満洲の……」 そして、 ガラガラ、ゴットン、ガラガラ、ゴットン、廻転木馬は廻るのだ。
「木馬は廻る」江戸川乱歩(青空文庫)
名文
ガラガラ、ゴットン、ガラガラ、ゴットン、廻転木馬は廻るのだ。
作中でくり返される一文。木馬館のラッパ吹き格二郎の哀歓を、回り続ける木馬の音が包み込む。
原文を読む
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