錦染滝白糸――其一幕――(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
白糸と新居の撫子との対面
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 7,770字
- 読了目安
- 約16分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 長野県
この作品について
大正5年(1916)2月の日付をもつ、泉鏡花の戯曲。『義血侠血』の主人公たち、水芸の太夫「滝の白糸」と新任検事の村越欣弥を借りた一幕物。信州松本、欣弥の新居を訪ねてきた白糸と、家で働く撫子との出会いを、台詞の応酬で描く。
あらすじ
信州松本の村越家。新任の検事となった村越欣弥の家には、かつて南京出刃打の小屋にいた娘の撫子が、女中のようにして暮らしている。今日は客が来るというので、撫子は近所の娘たちと庭の菊や常夏を活け、庖丁を持ってきたおそのが出刃と聞いて顔色を変える場面もある。帰宅した欣弥は、旧藩士の老人高原七左衛門を連れてきて、七左衛門は撫子を「奥方」と呼び、膳を風呂敷に包んで持ち帰るほどのひょうきんな振る舞いをして出ていく。そこへ水芸の太夫、滝の白糸が欣弥を訪ねてやってくる。道で七左衛門に居場所を聞いた白糸は、家には二人の女がいると聞いて顔色を変え、小女たちに欣弥の名や年を尋ねる。欣弥が出てきて感極まって手を取り、三年ぶりの再会に涙を流す。しかし白糸は、撫子の姿を見て、自分は女中になりに来たのだと皮肉を言い、亡き欣弥の母の位牌に手を合わせたあと、門を飛び出す。撫子は慌てて追いかけ、花道で袖を取る。
登場人物
- 村越欣弥 新任検事。かつて白糸に恩を受けた
- 滝の白糸 水芸の太夫。欣弥を訪ねて松本へ来る
- 撫子 南京出刃打の小屋にいた娘で、欣弥の家で暮らしている
- 高原七左衛門 欣弥の両親の知人で、旧藩士の老人
- おその、おりく 近所の駄菓子屋と車屋の娘
冒頭部(原文より)
撫子。円髷、前垂がけ、床の間の花籠に、黄の小菊と白菊の大輪なるを莟まじり投入れにしたるを視め、手に三本ばかり常夏の花を持つ。 傍におりく。車屋の娘。 撫子 今日は――お客様がいらっしゃるッて事だから、籠も貸して頂けば、お庭の花まで御無心して、ほんとうに済みませんのね。 りく 内の背戸にありますと、ただの草ッ葉なんですけれど、奥さんがそうしてお活けなさいますと、お祭礼の時の余所行のお曠衣のように綺麗ですわ。
「錦染滝白糸――其一幕――」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
思切りよくフイと行くを、撫子慌しく縋って留む。白糸、美しき風のごとく格子を出でてハタと鎖す。撫子指を打って悩む。 欣弥 (続いて)私は、俺は、婦の後へは駈出せない、早く。 撫子 (ややひぞる。) 欣弥 早く、さあ早く。 撫子 (門を出で、花道にて袖を取る)太夫さん……姉さん。 白糸 お放し! 撫子 いいえ。
「錦染滝白糸――其一幕――」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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