虫(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
厭人病者の屈折した執着
- 怪奇
- 文字数
- 44,065字
- 読了目安
- 約1時間28分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1929年(昭和4年)、雑誌「改造」に発表した中編。極度の厭人病に苦しむ孤独な男・柾木愛造が、思いを寄せた人気女優・木下芙蓉への執着をつのらせてゆく、異常心理と猟奇の物語。人と交われぬ男のねじれた愛を描き、乱歩の異常心理文学の代表作の一つに数えられる、暗く濃密な一編である。
あらすじ
柾木愛造は、両親から相続した財産で何不自由なく暮らせる身でありながら、幼いころから人の顔を見ると涙があふれてしまう、世にも異様な厭人病にとりつかれていた。人が懐かしいのに、その恥ずべき性癖を恐れて人を避け、孤独のうちに生きてきた彼の前に、かつての知人であった人気女優・木下芙蓉が、運命的に再会する。芙蓉への屈折した思いを募らせた愛造は、やがて彼女を自らの手にかけてしまう。そして——人と交わることのできなかったこの男は、あかずの土蔵にこもり、芙蓉の死体とともに暮らしはじめる。腐敗し、蛆のわいていく死体に、彼は狂おしい執着を注ぎつづける。やがて食事にも降りてこない愛造を案じて土蔵が破られたとき、そこには、むせ返る死臭のなか、恋人の腐肉に指を喰い入らせて折り重なる、二つのむごたらしい死体があった。人と交われぬ孤独な魂のねじれた愛と、死体への戦慄的な執着を描いた、乱歩異常心理ものの代表作である。
登場人物
- 柾木愛造 極度の厭人病に苦しむ孤独な男
- 木下芙蓉 愛造が思いを寄せる人気女優
冒頭部(原文より)
この話は、柾木愛造と木下芙蓉との、あの運命的な再会から出発すべきであるが、それについては、先ず男主人公である柾木愛造の、いとも風変りな性格について、一言して置かねばならぬ。 柾木愛造は、既に世を去った両親から、幾何の財産を受継いだ一人息子で、当時二十七歳の、私立大学中途退学者で、独身の無職者であった。
「虫」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
それから数日の後、柾木がまる二日間食事に降りて来ないので、婆やが心配をして家主に知らせ、家主から警察に届出で、あかずの蔵の扉は、警官達の手によって破壊された。薄暗い土蔵の二階には、むせ返る死臭と、おびただしい蛆虫の中に、二つの死骸が転っていた。その一人は直ぐ主人公の柾木愛造と判明したけれど、もう一人の方が、行衛不明を伝えられた、人気女優木下芙蓉の、なれの果てであることを確めるには、長い時間を要した。
「虫」江戸川乱歩(青空文庫)
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