なめとこ山の熊(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
熊撃ち小十郎と山の熊たち
- 幻想
- 文字数
- 7,305字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 岩手県
この作品について
宮沢賢治が書き、その死後の1934年(昭和9年)に発表された童話。熊の胆で名高いなめとこ山を舞台に、心優しい熊撃ちの名人・淵沢小十郎と、彼が撃つ熊たちとの、殺す者と殺される者の関わりを描く。生きるために熊を撃ちながら、熊を憎からず思う小十郎の揺れる思いが、山の風景とともに語られる。人と自然、生と死をめぐる賢治の思想が、静かな慈しみとともに結晶した名作である。
あらすじ
なめとこ山は、熊の胆で名高い山である。その山で熊を捕って暮らす淵沢小十郎は、大きな体に似合わぬ心優しい熊撃ちの名人だった。小十郎は生きるために熊を撃つが、心のうちでは熊を憎からず思い、熊もまた小十郎を慕うようなところがある。あるとき、母子の熊が谷を眺めて語り合う言葉を聞き、小十郎は音を立てずに引き返す。またあるときは、「二年たったら死んでやるから、それまで待ってくれ」と頼んだ熊が、約束どおり二年後に小十郎の家の前で血を吐いて死んでいた。それほど山と熊を知り抜いた小十郎だが、命がけで捕った毛皮や熊の胆は、町の荒物屋に二束三文で買い叩かれ、暮らしはいっこうに楽にならない。ある冬の日、小十郎はついに一頭の大きな熊に組み伏せられる。「おお小十郎、おまえを殺すつもりはなかった」という熊の声を聞きながら、小十郎は自らの死を静かに受け入れる。三日目の晩、氷のような月がかかった夜、雪の峰々に囲まれた山の上に、黒い大きな熊たちが環になって集まり、まるで回教徒が祈るように、高いところに据えられた小十郎の死骸を囲んで、いつまでもいつまでもひれ伏していた。凍りついた小十郎の顔は、何か笑っているようにさえ見えたのだった。殺す者と殺される者の哀しい絆を、賢治が深い慈しみをこめて描いた童話である。
登場人物
- 淵沢小十郎 なめとこ山の熊撃ちの名人。大男だが心優しく、生きるために撃つ熊を憎からず思う。ついに一頭の熊に組み伏せられて死ぬ
- 熊たち なめとこ山に棲む熊。小十郎を慕い、その死骸を月夜の雪の峰で祈るように取り囲む
- 荒物屋の主人 小十郎の熊の毛皮や胆を二束三文で買い叩く町の商人
冒頭部(原文より)
なめとこ山の熊のことならおもしろい。なめとこ山は大きな山だ。淵沢川はなめとこ山から出て来る。なめとこ山は一年のうち大ていの日はつめたい霧か雲かを吸ったり吐いたりしている。まわりもみんな青黒いなまこや海坊主のような山だ。山のなかごろに大きな洞穴ががらんとあいている。そこから淵沢川がいきなり三百尺ぐらいの滝になってひのきやいたやのしげみの中をごうと落ちて来る。
「なめとこ山の熊」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
その栗の木と白い雪の峯々にかこまれた山の上の平らに黒い大きなものがたくさん環になって集って各々黒い影を置き回々教徒の祈るときのようにじっと雪にひれふしたままいつまでもいつまでも動かなかった。そしてその雪と月のあかりで見るといちばん高いとこに小十郎の死骸が半分座ったようになって置かれていた。 思いなしかその死んで凍えてしまった小十郎の顔はまるで生きてるときのように冴え冴えして何か笑っているようにさえ見えたのだ。
「なめとこ山の熊」宮沢賢治(青空文庫)
名文
熊。おれはてまえを憎くて殺したのでねえんだぞ。おれも商売ならてめえも射たなけぁならねえ。ほかの罪のねえ仕事していんだが畑はなし木はお上のものにきまったし里へ出ても誰も相手にしねえ。仕方なしに猟師なんぞしるんだ。てめえも熊に生れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに生れなよ
熊を撃ち倒した小十郎が、その亡骸に語りかける言葉。生きるために殺さねばならない者どうしの因果を土地の言葉で語り、命をめぐる賢治の祈りがにじむ。
原文を読む
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