南地心中(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
宝の市の灯が照らす心中
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 39,206字
- 読了目安
- 約1時間18分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 大阪府
この作品について
大阪の花街を舞台にした長編。1912年(明治45年)1月に発表された。南新地の芸妓あがりの女と、彼女を金の力で縛る成金の旦那、そして若い手代。中座の桟敷での旦那の暴虐から、今宮の宝の市の行列へと、大阪の風俗を絢爛に描きながら物語は心中へと向かう。江戸前の作風で知られる鏡花が、上方の水と灯を舞台に据えた異色作。
あらすじ
初めて大阪の地を踏んだ男が、天満橋で城を仰ぐところから話ははじまる。案内する若い者が語るのは、南新地から出ている女・お珊のことであった。もとは芸妓で、意地張りの気性を知られた女が、いまは成金の丸官という旦那に囲われている。中座の桟敷でのこと、酔った丸官は取巻きを引き連れて騒ぎ、金の力を笠に着て芝居茶屋の若い者を辱め、お珊の胸へ身を投げ出す。その振舞いの負債を果させるため、南新地の浪屋の奥座敷へ一同が集められた。折しも今宮では宝の市。十二人の姫が緋の袴に台傘を連ね、練り歩く列の下で、お珊の黒髪はふつと二岐に裂ける。
登場人物
- お珊 南新地の女。もと芸妓で、意地張りの気性を知られる
- 丸官 お珊を囲う成金の旦那。金の力を笠に着て人を辱める
- お美津 宝の市の姫にえらばれた十六七の娘
- 若い手代 丸官の暴虐のなかでお珊を介抱する男
冒頭部(原文より)
「今のは、」 初阪ものの赤毛布、という処を、十月の半ば過ぎ、小春凪で、ちと逆上せるほどな暖かさに、下着さえ襲ねて重し、野暮な縞も隠されず、頬被りがわりの鳥打帽で、朝から見物に出掛けた……この初阪とは、伝え聞く、富士、浅間、大山、筑波、はじめて、出立つを初山と称うるに傚って、大阪の地へ初見参という意味である。
「南地心中」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
「おいでや、美津さんえ、……美津さんえ。」 練ものの列は疾く、ばらばらに糸が断れた。が、十一の姫ばかりは、さすが各目に名を恥じて、落ちたる市女笠、折れたる台傘、飛々に、背を潜め、顔を蔽い、膝を折敷きなどしながらも、嵐のごとく、中の島籠めた群集が叫喚の凄じき中に、紅の袴一人々々、点々として皆留まった。 と見ると、雲の黒き下に、次第に不知火の消え行く光景。行方も分かぬ三人に、遠く遠く前途を示す、それが光なき十一の緋の炎と見えた。 お珊は、幽に、目も遥々と、一人ずつ、その十一の燈を視た。
「南地心中」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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