楢ノ木大学士の野宿(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
大学士、三晩の野宿
- 幻想
- 風刺
- 冒険
- 文字数
- 17,395字
- 読了目安
- 約35分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 岩手県
この作品について
宝石学者の楢ノ木大学士が、「貝の火兄弟商会」の赤鼻の支配人から上等な蛋白石探しを頼まれ、旅に出て三晩を野宿で過ごす物語。第一夜は岩頸の山々、第二夜は石切場の鉱物たち、第三夜は海辺の頁岩の地層と、夜ごとに登場するものも趣向も変わる。山や鉱物を人のように語らせ、地質学・鉱物学の用語をふんだんに使うのが特色で、短い行を重ねた詩のような行分けで書かれている。舞台には岩手県花巻付近の葛丸川などが使われているとされる。
あらすじ
宝石学者の楢ノ木大学士のもとへ、貝の火兄弟商会の赤鼻の支配人が、グリーンランドの成金に売る上等の蛋白石を探してほしいと頼みに来る。大学士は自分には宝石に引かれる不思議な直覚があると威張って引き受け、旅費を受け取って出かける。第一夜、葛丸川の河原で白い柔らかな石を寝台に横になった大学士の前に、四つの岩頸の山が、ラクシャンの四人兄弟として姿を現す。荒っぽい長兄は噴火の支度をしろと怒鳴り、末の弟は向こうの山ヒームカを慕って花を贈ったと語り、兄たちの言い争いや野火を前にした騒ぎが夜空に響く。第二夜、大学士は石切場の笹小屋で眠るうち、足もとの花崗岩のかけらの中の黒雲母、角閃石、正長石、斜長石、石英といった鉱物たちが肱を張った張らないと喧嘩しているのを聞く。やがて黒雲母が風化の病に苦しみだし、斜長石の医者が診察して、みなが同じ病を抱えていると告げる。第三夜、大学士は海辺の頁岩の海岸で、巨大な五本指の足跡を見つけて追うが、泥の浜で足跡の主の雷竜に出会い、見回すとうじゃうじゃの雷竜に囲まれて、顔を寄せられたところで目が覚める。洞穴の外では波の音がしている。東京に戻った大学士は、支配人に背嚢の中身を逆さにしてあけ、下等な玻璃蛋白石を三十ばかり転がして見せる。支配人が「あんまりです」と抗議するのを、大学士は旅費の袋を投げつけて追い返し、にやっと笑う。
登場人物
- 楢ノ木大学士 宝石学の専門家。直覚で宝石を探す
- 貝の火兄弟商会の支配人 赤鼻の依頼人
- ラクシャンの四人兄弟 岩頸の山々。荒っぽい長兄、眠る次兄、穏やかな三男、優しい末弟
- 鉱物たち 花崗岩の中の黒雲母・斜長石・正長石・石英など
冒頭部(原文より)
楢ノ木大学士は宝石学の専門だ。 ある晩大学士の小さな家へ、 「貝の火兄弟商会」の、 赤鼻の支配人がやって来た。
「楢ノ木大学士の野宿」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
楢ノ木大学士は怒り出した。 「何があんまりだ。僕の知ったこっちゃない。ひどい難儀をしてあるんだ。旅費さえ返せばそれでよかろう。さあ持って行け。帰れ、帰れ。」 大学士は上着の衣嚢から 鼠いろの皺くちゃになった状袋を 出していきなり投げつけた。 「先生困ります。あんまりです。」 貝の火兄弟商会の 赤鼻の支配人は云いながら すばやく旅費の袋をさらい 上着の内衣嚢に投げ込んだ。 「帰れ、帰れ、もう来るな。」 「先生、困ります。あんまりです。」 とうとう貝の火兄弟商会の 赤鼻の支配人は帰って行き 大学士は葉巻を横にくわえ 雲母紙を張った天井を 斜めに見ながらにやっと笑う。
「楢ノ木大学士の野宿」宮沢賢治(青空文庫)
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