猫の事務所(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
かま猫がうけた理不尽ないじめ
- 幻想
- 文字数
- 6,258字
- 読了目安
- 約13分
- 表記
- 新字旧仮名
この作品について
宮沢賢治が1926年(大正15年)、雑誌「月曜」に発表した童話。副題は「ある小さな官衙に関する幻想」。猫の歴史と地理を調べる「猫の第六事務所」を舞台に、かまどで眠るため体が煤で汚れている「かま猫」が、ほかの書記たちから理不尽にいじめられ、仲間はずれにされていくさまを描く。猫たちの振る舞いと、かま猫の胸の内を通して、いじめと差別の理不尽を、賢治が寓話に託して静かに、しかし鋭く告発した一編である。
あらすじ
軽便鉄道の停車場の近くに、猫の第六事務所があった。ここは主に、猫の歴史と地理を調べるところで、黒い繻子の服を着た四人の書記は、みなに尊敬される羨望の的だった。事務長は大きな黒猫、書記には白猫、虎猫、三毛猫、そして四番書記の「かま猫」がいる。かま猫とは、寒がりで、いつもかまど(竈)のなかで眠るために、体じゅうが煤で汚れている猫のこと。そのみなりのために、かま猫は他の書記たちから嫌われ、いじめられていた。ある日、かま猫がかぜをひいて休んだのをよいことに、ほかの猫たちは、かま猫のことを事務長に悪く言い、しだいに仲間はずれにしていく。無実の言いがかりに、かま猫はただ涙を流すばかり。そこへ通りかかった大きな獅子が、この光景を見て、たまりかねたように一喝する。「お前たちは何をしているか。そんなことで地理も歴史も要ったはなしでない。やめてしまえ。えい。解散を命ずる」――こうして猫の事務所は廃止になった。「ぼくは半分獅子に同感です」。いじめと差別の理不尽を、賢治が寓話に託して告発した童話である。
登場人物
- かま猫 かまどの中で眠るため体が煤で汚れている四番書記。そのみなりのために、ほかの書記たちからいじめられる
- 事務長(黒猫)と三人の書記 かま猫を嫌い、仲間はずれにしていく猫たち
- 獅子 通りかかって理不尽な光景を目にし、一喝して事務所の解散を命じる
冒頭部(原文より)
軽便鉄道の停車場のちかくに、猫の第六事務所がありました。ここは主に、猫の歴史と地理をしらべるところでした。 書記はみな、短い黒の繻子の服を着て、それに大へんみんなに尊敬されましたから、何かの都合で書記をやめるものがあると、そこらの若い猫は、どれもどれも、みんなそのあとへ入りたがつてばたばたしました。
「猫の事務所」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「お前たちは何をしてゐるか。そんなことで地理も歴史も要つたはなしでない。やめてしまへ。えい。解散を命ずる」 かうして事務所は廃止になりました。 ぼくは半分獅子に同感です。
「猫の事務所」宮沢賢治(青空文庫)
名文
ぼくは半分獅子に同感です。
いじめのはびこる猫の事務所を獅子が解散させたあと、語り手が添える最後の一行。「半分」という留保に、単純な勧善懲悪では終わらせない賢治の複雑な思いがこもる。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。